作ってみる
今回は材料もそこそこ集まったし、柴犬にしか見えないINU、ヘレシュをお迎えした記念に何かプレゼントしたい。
そんな話です。
1年目 4月29日 開花日
シオン・クロプダと言うキャラ名で、クリエイト精霊となり、ゲームと酷似した世界でゲーム同然の生活をしている元彼。
現彼女が飼いはじめた、柴犬にしか見えないINUであるヘレシュは、とても有能だった。
「羊の魔獣をまた狩ってきたのか。 こうやって毎朝何かしら持ってきてくれるし、近くの森へ採取に行くときは護衛してくれるし。 本当に有能だな、ヘレシュは」
〈ワンッ!〉
お座りしてドヤ顔をキメるヘレシュに、シオンが満足気に頭を撫でてやる。
撫でられた側も満足気に、尻尾をフリフリして機嫌の良さをストレートに示してくれる。 可愛い。
~~~~~~
INUの登場により、シオンの活動範囲は大きく広がった。
ゲームであるならば適当に村の店等へ赴き、生産品と物々交換により簡単に様々な物を手に入れられたのだが、現実ではまだ村の誰とも交流していない彼女である。
理由? 大体のやり方を知ってるから、チュートリアルなんか省略でいいでしょと、適当に活動をはじめたからだ。
チュートリアルでは、どこかの技能に沿った施設へ弟子入りする所から始まるので、その時点で村人と面識ができる。
しかしそれをしなかったから、ボッチでずっと活動中。
……まあゲームでは無く現実なので、各施設から無限に物を取得する事が出来ないし、交流する必要性をあまり感じないのも仕方のない事かも知れない。
「さて。 動物の皮も十分手に入ったし、作ってみたかったアレを作ってみるか?」
〈ワフン?〉
それで現在のシオンは何をしているのか? と問われれば、鍛冶小屋から建て替えられた、総合生産施設で生産中。
最終的な生産施設までの中継ぎとして、とても優れているとされた設備群の材料が揃ったので、数日前につい勢いで建ててしまったのだ。
「よし出来た! ヘレシュ用だぞ! 喜べ!」
仕上げの作業室に、INU連れで来ていたシオンが叫び、ヘレシュへその成果を見せ付ける。
彼女の表情はとても晴れやかで、そのタクアン眉毛も自慢したそうにピクピク動く。
当の見せ付けられた側だが……反応はない。
〈……ヮゥ〉
いや、今あったね。 とても不満そうなのを、全力で示しているね。
いつも元気なヘレシュにしては珍しいリアクションだと思いますよね? でも、その見せ付けているモノがわかれば同情せざるを得ない。
「えー、良くない? ビキニアーマー」
お分かり頂けただろうか?
魔獣の皮を水着の形に切り出し、ジャラついた音がとても気になる鱗鎧式のビキニアーマー。
通常のイメージなら薄い鉄板を貼り付けた物だが、変化球として日本ではマイナーな方を生産した模様。
名称:ビキニアーマー(ミスリル使用・鱗式)
耐久:720/720
付与:見えない鎧 体温調整(大)+地形ダメージ軽減(大)=悪環境に強い
解説:防具と思えない、極めて高い露出度を誇る。 胸部周りと腰周りを申し訳程度に隠す、キワドイ物体。 ブラとパンツ部には鱗状の金属が縫い付けられており、それによって何とか防具かもしれないと思わせる。
鱗型のビキニアーマーは野蛮な印象を与えるため、これを着た女性はアマゾネスにも見える。 男性が着ると通報されたり大惨事となる可能性が高いため着用は絶対に薦めない。
この精霊、INUにそんなビキニアーマーを着せようとしているのだ。
これはもしかしたら、誰もが理解できないユンユンみゅーんみゅーんとした宇宙からの電波を、シオンが受信させられたとでも言うのだろうか。
〈クゥン〉
ヘレシュが彼女の様子を窺う様に上目づかいしつつ、弱々しく鳴く。
「え? 自分で着ろ? イヤだよ、なんで俺が着なきゃならないんだよ。 ビキニアーマーは他人へ着せてナンボでしょ」
……え! ヘレシュの言いたいことを理解できたの!?
違う。 それは今気にする所じゃない。
バカはいま何と言った? 自分で着ないと言ったよね?
〈…………〉
あんまりなアレっぷりを見て、ついにヘレシュが返事をしなくなった。
おのれバカ精霊、可愛いINUの顔を曇らせやがって。 お前に接近できる機会があったなら、殴ってやりたい。
あまりにも悲しそうにしょんぼりするヘレシュを見て、シオンも罪悪感を感じたのか、妙な明るさで声をあげる。
「わかったよ! INUならコレって言える、良く似合うアクセサリーを作ってやるから、機嫌を直してくれよ!」
〈ワンッ! ワンッ!〉
今泣いたカラスがもう笑う。 そうとしか言えない素早い変わり身で機嫌を直すヘレシュに、安堵混じりのため息を吐いて、シオンが再び作業へ戻る。
~~~~~~
「今度はコレ! 贅沢にミスリルを使ってみたが、どうだ?」
〈クゥン〉
またバカがやらかした所為で、ひどくしょんぼりしてしまったヘレシュ。
その背中には、鈍く輝く“ファスナー”が。
……説明するのも馬鹿馬鹿しいが、どうやってくっついているのかよく分からない、ゲームのネタ装備をヘレシュの背中へ貼り付けている。
「これ、結構良い付与を付けてみた自信作! この位の文明なら、まだ出回っていないであろう特別な品だぞ! 喜べ!」
〈……ヮォン〉
「くっ……! 本当に凄い物なのに、理解されないとはっ!」
普通、喜ばねーよ。
こんなモノをリアルに貼り付けられて、喜ぶ馬鹿はそう居ない。 何かのお祭りで、ふざけて着けるやつなら出てくるかもしれないが。
「わかった、わかりました! ネタ成分抜き! 本気で時間をかけて、INUらしい装備を作ってあげますから、待っていろよな?
あ、いや。 もうお昼だな、ご飯を一緒に食べてからにしようか?」
そう言って生産施設から出て行く精霊と、尻尾を激しく振りながらついて行くINU。
ちなみにファスナーを【職人の眼】で鑑定した結果がこちら。
名称:ファスナー(ミスリル製)
耐久:300/300
付与:頑丈(大) 自動回復力強化(中)+スタミナ消費軽減(中)=鉄人
解説:服の素材。 素材以外にも、体や服に当てると、なぜか当てた部分にくっ付くファスナー。 背中へ付ければ可愛く着ぐるみ風、額へ付ければ化け物風に。
ファスナー以外の呼称は大人の事情がついて回るので注意されたし。
~~~~~~
「完成! ヘレシュ、これでどうだ!!」
〈ワフン?〉
生産施設内の、別部屋。 外は夕暮れとなっていて、かなり時間がかかった品物だと推測できる。
シオンが力作を見せ付けるも、それが何なのか理解されず、首をかしげられた。 可愛い。
その見せ付けていた代物は布。
そう、ここは機織り部屋。 部屋には地機……布を織る木製の機械が置いてあった。
布は魔獣の羊毛製。 5月の中旬から下旬になったら、飼育している普通の羊の毛も刈るかもしれない。
その羊毛で出来た糸を緑色に【錬金術】で染めて、織り上げたバンダナだ。
名称:魔獣羊毛バンダナ
耐久:400/400
付与:自動修復(中) 耐病気(大)+清潔=医者要らず
解説:羊の魔獣から獲った羊毛を糸に加工し、バンダナサイズの布となった物。 魔獣由来の素材であるため、かなり丈夫。 動物の首に巻いてやると、可愛さアップ。
何とか紬や何とか染めと呼ばれる技術は無いし、他の色を交ぜて織る技術も無いものの、シオンが気合いを入れて織った物である。
未だバンダナをどう使うかわかっていない様子を見て、優しい手つきでバンダナを首に巻いてやる。
「どうだ? 気に入ってくれたか?」
鏡をヘレシュへ向けてやり、全身が見えるよう調整すると、自身がどうなっているか理解してお目目が強くキラキラしだす。
〈ワンッ! ワンッ!〉
喜んでくれている。 それを理解してしまえば、この可愛らしい相棒につられて嬉しくなってしまう。
「そうかそうか! 本当は唐草模様にしたかったんだが、出来なくてね。 それでも喜んでくれるのは本当に嬉しいぞ!!」
〈ワフン!〉
感情が喜色に振り切れ、勢い余った彼女はヘレシュへ飛びかかる!
「ヨーシヨシヨシ、ホーレホレホレホレホレ、ヨーシャシャシャシャシャシャシャ……!!」
精霊が壊れた!!
しかもその壊れた精霊の背後に、とてつもなく優しくて朗らかで、おおらかでいらっしゃる男性がうっすらと浮かんでいる!!
〈ワフ~ン……〉
壊れた……いや、何者かにとり憑かれたようにしか見えないシオンによる、鍛えられた【職人の指先】から繰り出されるコショコショに耐えられず、すこしおかしくなっているINUがそこにいた。
〈ガウっ!!〉
「はっ!? すまん、つい撫で回し過ぎたっ!!」
しばらく経ち我に返ったヘレシュから叱られ、変な状態にされた事で距離をとろうとする様子まで見せられて、わりと本気で凹むシオンだった。
~~~~~~
「………………なんだい、ありゃあ」
精霊とINUがしばらくじゃれあっている姿を見て、しかも付き合いだして直ぐのイチャイチャした後に相手の顔が恥ずかしくて、見られない~。
みたいな馬鹿馬鹿しい空気まで見せられたオババ様は、あらゆるものを放り捨てた。
「こんなお馬鹿な小娘としか見られない大精霊と、働き者の忠犬にしか見られない伝説のINU。 こいつらから、害意を見いだそうとしたアタシこそが、馬鹿みたいじゃないのさ」
やべーモノ判定して、もう随分監視をしてきたけれど、この様子を見て判断材料が全て揃ったと確信した。
「アレは決して悪いモノじゃあない」
そう。 確信はした。
「後は行商の坊主達も含めた村の連中で、大精霊がもたらす物の影響を調節してやればいい」
オババはあの大精霊は、かなり特別なモノであると判断した。 だが多大な影響力をもち、いつか馬鹿をやらかすのは目に見える。
「物を作る能力が高過ぎて、世の中には過ぎた物ばかり出してくるかもと、ヒヤヒヤはするけどね」
それを上手く村で隠蔽して、巻き起こりそうな被害をしっかり吸収できれば、防壁となってやれる。
精霊を隠す事にもつながり、あんな世間知らず臭い小娘に、汚い世間を見せずに済ませられる。
まあ大精霊の立場からすれば、汚い世間からどんなちょっかいを出されても、はね除けられる権力を備えているのだが。
「明日、村のモンとして挨拶しに行こうかね。 それでこっちを気に入ってくれて、上手く付き合っていけたら最良かねぇ」
いつも厳しい目付きでいるオババ様だが、そう呟く表情は少しだけ柔らかかった。
「……にしても、大精霊が背中にはっ付けてる、ありゃなんだい?」
柔らかタイムは直ぐ終了しました。
厳しく見つめる先にあるのは、背中でミスリル色に輝く縦線。
そう、あのファスナー。 どうやら死蔵するのがもったいなくて、着ける事にしたらしい。
「何に使うかよく分からない、けったいなモンをこさえるのは、どうにも理解できないね。 これは」
シオンは時代を先取りし過ぎた様だ。
ビキニアーマーで付与された見えない鎧とは、肌露出部でも防具を着込んだ状態になる、不思議バリアチックな奴。
ファスナーは素材兼ネタアクセサリーとして、元々ゲームに存在しておりました。
付与コンボの鉄人ですが【料理】にプラス補正される付与を追加すると、料理の鉄人へと変わります。
少しの間、シオンのステータスをこちらで。
(前話と今話での変動表示)
シオン・クロプダ
クリエイト精霊・女性型
装備 :初期衣装
装飾品:ファスナー
ステータス
【職人の体つき】:192→221(主要因 様々)
【職人の魂】 :191→218(相棒との確かな繋がり)
【職人の知識】 :103→147(料理)
【職人の眼】 :149→164(INUの弱点探し)
【職人の腕】 :201→222(鍛冶)
【職人の指先】 :157→196(モフり方研究)
【職人の懐】 :405→520(相棒を相棒として迎えられた喜び)
ステータスの具体的な意味は上から順に、
スタミナ・MP・知性・鑑定力・腕力・器用さ・収納可能アイテム枠数
初期値はオール10(懐だけ100)だが、種族ボーナスで全てにプラス10。
現在のカンストは300(懐は999)
技能
【農業】 :100(カンスト)
【布・皮革】 :37→81(機織りするため、いっぱい糸をよったよ!)
【酪農】 :22→34(ヨーシヨシヨシ)
【鍛治】 :71→89(ファスナー作るの大変)
【調合・調薬】:22→30(錬金術の魔法薬に釣られて上昇中)
【料理】 :94→100(カンスト! 黒焦げ料理からの開放!!)
【木工】 :63→82(機織り機作るの大変でした)
【錬金術】 :80→93(錬金術万能説)
【装飾加工】 :59→71(バンダナへ刺繍をしようと頑張ったけど、ピンと来る図形がなかった)
技能のカンストは現在100