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事の始まり

 時を学園入学三ヶ月前に戻そう。


 当時、極秘裏に二つの家の子息と令嬢が王城に呼び出された。宰相を務めるプラドネル家と宮廷魔術師団団長を務めるエイザンシッツ家である。


 プラドネル家の一人娘、アンリ・クロード・プラドネル。今年で15歳を迎える少女は柔らかい笑みを浮かべ、リラックスした様子で馬車に乗っている。


 が、その実、ガックガクである。膝は生まれたての小鹿なみにプルプルと震え、体全体がバイブレーションモードかと言うほど小刻みに揺れている。


ーーーうわぁぁぁあ!!無理だ無理だ無理だ。え、記憶戻って3日後に登城とかハードモードすぎいいい!!

 

 そう、彼女はよりにもよって王家のお呼び出し3日前に前世を思い出したのである。加えて、今世の体は非常に弱く、人生のほとんどを寝て過ごしていた為、その人格のほとんどは前世で形成されたものなのだ。そして、前世は勿論貴族なんかではなく、日本で、親友兼悪友とちょっとトリッキーでハッピーな悪戯を生きがいとする愉快な女子高生をやっていた。

 

つまり、笹川すず、改め、アンリ・クロード・プラドネルは、この世界に生まれたてほやほや赤ちゃんベイビー状態なのだ。


ーーーあかん…あかんやつや…。お父様やお母様、お兄様たちは私が動き回れるようになって涙腺崩壊するんじゃないかってほど泣いて喜んでたけど、マナーとか全然教えてもらってないよ…。これ、不敬で一発アウト首チョンパなのでは…


 アンリは顔は余裕そのものに、馬車に揺られ、それ以上に全身を震えさせながら、なんとか今世での数少ないマナーについての記憶を引っ張り出していた。


 王都にある屋敷から王城はそれほど遠い訳でもなく、無情にも20分ほどでアンリは王城についてしまった。


「私はできる子。大丈夫!今までだってもっとギリギリの状況乗り切ってきたんだからいける!!ね、けーくん!」


 口に出してから気づいた。かつていつも隣にいた悪友はもう居ないことに。アンリはゆっくりと目を閉じた後、ばちーんっ、と自分の頬を全力で叩きニッと笑った。


「感傷なんかに浸ってやんねぇよ!!どっかで見とけよ?」


 そう呟いて、開かれていく馬車のドアから足を踏み出した。



***


 城の執事の案内を受け、アンリは一室に通された。

 高級そうなソファーと机が置かれ、煌びやかな装飾はないながらも、品よく統一された家具に、所々に可愛らしい花々がいけられた部屋は暖かみがあり非常に居心地が良い。


ーーーここが…客室…?


 誰も居ない部屋に通されたアンリは座って良いものかも分からず何となく部屋を眺めていると、ドアの外で声が聞こえた。


「え、ここって…王家の皆様のプライベートルームではないですか?ほ、本当にここ、なんですか??」

「左様でございます。陛下はまもなくいらっしゃいます。どうか中でお待ち下さい」


 1人はさっき自分を案内してくれた執事の声。もう1人はどうやら自分と同い年くらいの少年の声であった。


ーーーよ、よかった〜。私だけじゃないんだ。同年代がいる安心感半端ないわ〜。


 アンリは顔見ぬ少年に謎の連帯感を抱いた。

 がちゃり、とドアを開け、薄い水色の髪の美少年が入ってきた。


 アンリがドアの方を向いていた為バッチリと目があってしまった少年は、その猫のような目を丸くすると、


「アンリ・クロード・プラドネル様、ですか?」


 驚いた様子で尋ねた。


「はい。そうですわ。えーと、貴方は…?」


 ノータイム返答である。見事な反射力だ。


「あ、失礼いたしました。先に名乗るべきでしたね。僕は、シリル・ディ・エイザンシッツと言います。エイザンシッツ家次男です。よろしくおねがいします」


「ご丁寧にありがとうございます。お恥ずかしいのですが、わたくし、先日まで病床に臥せていまして、世間のことには疎いのです……」


 アンリは元深窓の令嬢実績を活かしまくり儚げに目線をそらす。


「それは知ってますよ。長い間、闇属性の魔力に苦められていらっしゃったんですよね…父から聞き及んでいます。今、体調の方は大丈夫なんですか?」


ーーーん?闇属性の…魔力…?え、私、魔力あんの!?てか、体調不良の原因って魔力だったの!?初知りオブ初知りなんですがそれは!?


 いきなりの新情報に内心てんやわんやしながらも、


「今は何ともありませんわ。3日ほど前から不思議と良くなりまして」


 儚げスマイルを決めれる程度にはアンリは前世で場数を踏んでいるのだ。


「そうなんですね、良かった。君のような可愛らしい人が苦しむ姿は見たくないですし、君は笑顔がとても似合います」


 そう言って少年は優しく微笑んだ。

 見たこともないくらいの美少年に微笑まれ、アンリはトキメキを感じる、はず、なのだ。実際に胸はドキドキしている。が、それ以上に、言いようの無い既視感が脳内を埋め尽くす。


ーーーこの表情…どっかで……


「可愛らしいなんて、そんな…言われ慣れていないので照れてしまいますわ」


 既視感の正体を全く思い出せないアンリは、一旦素直に受け止めることにした。今世の己が容姿の美しさには自分が一番感動しているのだ。






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