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プロローグ

 授業開始を前に2人の美しい少女が教室で噂話でも話しているように見える。1人は腰まである黒髪をくるくると巻いた気の強そうな赤目の少女。もう1人は肩で切りそろえた薄い水色の髪に金色の猫目の少女。


「ねぇねぇシリルさん。お隣をお見になって?」

「やぁやぁ、アンリ嬢。今日もいい天気でしてよ?」

 

 しかし、騙されてはいけない。


「ほらほら、シリルさん。殿下は今日も絶好調ですわよ?」

「あら、アンリ嬢。今日、わたくしの庭の薔薇が綺麗に咲きましたのよ」


 このシリルと呼ばれる水色の髪の少女は少女なんかではなく少年であり、2人がしているのは噂話なんてものではなく、もっと脳死した何かである。


「うふふふふふ、あはははは……。それで、そろそろお隣を見てはいかが?」

「うふふふ…アンリ嬢…。貴様は俺に死ねと?」

「あらあら、気付いておられだったのね?」

「気付かねぇ訳ねぇだろ…。あれヤバくね?」

「わたくし、恐ろしくて隣が見れませんわ」

「奇遇だな。俺もだ」

「いや、お前はなんとかしに行けよ!」

「アンリ嬢……」


 そこでシリルはしっかりと溜めを作って、


「こんな事態になってる時点で俺らの首はいつ胴体とおさらばしてもおかしくないの!!最早、て、お、く、れ!!」

「手遅れでもなんでも行くのが家臣の務めでしょうが!!これを止めなくていつ止めんの!?」


 そして、2人はしばらくの無言で見つめ合ったのち、


「「はぁ…」」


 盛大かつ、誰にも気付かれないよう溜息を吐いた。


「はい、そろそろ茶番は止めて、いつも通りいきますか…」

「行くっきゃねぇでしょ…国の未来かかってんだから…」


 因みに、驚くべきことは、この会話を周囲からは仲良くお話してる少女たち、にしか見えないように繰り広げていることである。



***


「あーらあらあら〜レイラ様ではございませんか〜。どうなさいましたの?婚約者であるわたくしを差し置いて、殿下の横に見せびらかすようにお座りになって」


 トレードマークの扇子をばっと広げ、口元を隠しつつ言う。


「見せびらかす?ご冗談を…私は勉強で分からない所があったので殿下に聞いていただけですわ」


 レイラは心底不思議そうにアンリを見つめ返して答えた。


「そうですの?なら、レイラ様と仲のよろしい魔術研究会の彼に聞けばよろしいのでは?それとも何か殿下とお話ししたいご用がございまして?」

「よさないか、アンリ。彼女は本当に勉強の質問をしていただけだよ」


 嫌味ったらしく言うアンリを諫めた彼。彼こそが殿下ことエドワード・ロゼアンヌ・カルバート。サラサラ金髪緑目の爽やかイケメンだ。


「殿下がそうおっしゃるなら信じます…が、あまり人目のつく所で異性と2人きりにならないで下さいね」

 

 アンリがピシャリと言い放つ。

 一見、私以外の女と近づくな!という趣旨の発言に聞こえるが、よく聞いてほしい。『人目につく所で』なのだ。

ーーーまじ頼むから人目がある所でマリエル嬢以外に近づくな!マリエル嬢とは隠れてどんだけ密会して下さっても結構ですから!!

 これが真意である。


 エドワードは僅かにため息を吐きながら答えた。


「ああ。分かっているさ」

ーーーいいえ殿下。殿下は全く分かってません。この会話何回目だと思ってるんですか!?だからそんなやれやれ顔すんな。どつくぞ。


「では、殿下お隣よろしいですか?あ、レイラ様、もうご用件はお済みでしょ?さっさと教室の隅へでも移動なさって」


 微笑みながら、ただし目を全く笑わせずに言う。器用なものだ。


「その言い方は…あんまりではないですか?プラドネル様。仰られなくとも私は用が済んだ離れるつもりでおりましたのに…」


 レイラが寂しそうにエドワードをチラ見しつつ言う。

ーーーおま、それはあかんやつやろ!?そんな寂しげスマイルは…


「いいじゃないか。アンリ。レイラ嬢も一緒に授業を受けようじゃないか」


ーーーですよねぇ〜!!殿下女の子のその顔に弱いっすもんねぇ〜!!

 ヤケになり謎のテンションでツッコミながらも、なんとか自分の役を果たし切ろうと否定の言葉を口にする。


「嫌ですわ。わたくし、こんな女性と一緒に授業を受けるなん…」

「い、いいんです殿下!私、そんなつもりで言ったんじゃありませんわ」


 思いっきり言葉を被せたレイラは、可愛らしく首を横に振りつつエドワードの手を押さえた。さり気ないボディータッチだ。


「では、失礼します。また、勉強をお教えくださったら嬉しいですわ」


 そのまま教本やら筆記具やらを持ってレイラは教室の端の方にある席に移動した。

 その様子をエドワードは心配そうに目で追っていた。それはさながら想い人を見つめるようである。


「お隣失礼しますわ。殿下」

 若干の怒気をはらませアンリは言った。周囲の生徒らは皆顔を引きつらせているが当の本人はどこ吹く風のように平然とと答える。


「ああ。構わない」


その様子にアンリはふっと遠い目なり

ーーー殿下…。好きでもない子にそんな態度とってたらいつか刺されますよ…。あ、その前に私がどつきそうですが…

 と悟り顔になった。まあ、周囲からは暗黒微笑にしか見えなかったが。



***


 一方その頃。


「やあやあやあ、イマノルくん。ちょっと教室に入る前に手合わせなんてどうだい?」


 教室のドアにもたれかけながらシリルが声をかけた。


「あ?今から?もうすぐ授業始まるぞ?お前も早く席に着いた方が…」


 そう言ってイマノルはドアノブに手を掛けた。


「まあまあ、イマノル君なら一瞬で勝っちゃうだろうし…。それに勉強前に身体を動かすと記憶が定着しやすいとも言うし」 


 ドアとイマノルの間に華麗に体を滑り込ませ、微笑みながら言った。

ーーー待ったぁぁ!!今開けたら中で殿下が他所の女同士で修羅場ってんだよ!

 内心冷や汗たらたらながら余裕そうにイマノルの返答を待つ。


「そ、そうなのか?そんなに言うならまぁ、一瞬だろうし…」

「よし決まり!じゃあちょっと広いとこ行こっか」

「これ移動時間の方がかかるんじゃねぇか?」


 とぶつくさ言いながらもちゃんと着いていっている少年。彼の名はイマノル・ベルドゥゴ。この国では見かけない赤色の髪を後ろで束ね、特徴的な耳飾りをつけた、サンザシ王国からの留学生。…という設定のエドワード監察係だ。エドワードが、サンザシ王国第三王女が嫁ぐに値する人物なのかを判断するため送り込まれたのだ。


「じゃあ、始めるよ。よーいスタート!」

 

 シリルが開始の合図をしたとほぼ同時にキィィンと剣がぶつかる音がし、イマノルはシリルの剣を弾き落とさせ、その首元に剣を構えていた。


「終わりだ」

「うわぁ、また負けちゃったか。今日こそちょっとは動けるかなって思ったんだけど…」


 シリルが少し悔しそうに言って、互いに剣を収める。


「はぁ、一体何回すれば気が済むんだ?毎日毎日…」

「ふふふ、やっぱりイマノル君って強いよね。伊達に剣の天才って呼ばれてないよ」

「あーあ、そりゃどーも」


 呆れ半分にイマノルが礼を言って、いつも通り、イマノルの圧勝で終わる。当然である。彼はサンザシ王国では王国始まって以来の剣の天才と言われ、その若さで王家直属の部隊に所属しているのだから。そこらの学生などが到底敵う相手ではなく、実際シリルも剣の試合では勝ったことがない。


 シリルたちが教室に駆け込んだ頃にはアンリの悪役令嬢ムーブのおかげで修羅場は消えていた。

ーーーはぁ…なんとかなった…

ーーーはぁ…なんとかなったぁ

 授業前にしてごっそりHPを削られた悪友二人はそっと息を吐いたのだった。







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