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事の発端は悪戯から

がちゃり、と。

鍵のかかる音。

閉じられた戸に沈黙した理科準備室。

何で?

何で?

何でぇぇぇ!!!?

思わず戸を見たまま固まっているボク。

驚いているけれど、驚いているように見えない。

でもすぐその驚きはるっちゃんにも分かるようになった。

手に持っていたビーカー。


すらりと。


それが手から離れるように。


垂直に。


それは空中を落下し。


触れれば。


床に…がしゃーん。

ボクはその音とともに今まで浮いていた意識が戻った。

それと同時に一種の恐怖?罪悪?のようなネガティブが感情があらわれる。

ビーカーを割ってしまった。

ビーカーを割ってしまった。

ビーカーを割ってしまった。

頭の中で何度もつぶやく。

そして再び硬直。

ボクが固まっている間にるっちゃんは戸の方へかけよった。

何度か戸を強引に開けようと試みているが開く様子はない。

ただ今ボクでも分かったことがある。



これは事故でも、偶然でもない。故意的な…もの。



 るっちゃんは、はぁ、とため息をつくとボクの方へ戻ってきた。

そして

「ぃぃぃぃぃぃ」

ボクの頬を引っ張る。

そのままぐにゃぐにゃとボクの顔で遊びだした。

人間の頬ってここまで…広がるものなんだろうか。

とボクは自分のぐにゃぐにゃする頬に疑問をもった。

「ふぅ…閉じ込められたっていうのかな〜」

るっちゃんはこんな時にさほど驚く様子もなく、ましてや呆れたように言う。

普通の人なら驚くところなんじゃないかな。

まさかるっちゃんは地球外生命た……。

それはないとして…。

じゃあ、2度目とか?

「るっちゃんこういうの二度目なの?」

と聞こうと思ったけど当然るっちゃんがボクの頬(いじ)めをやめることはなく…。

無理に言葉を発してもハ行でしかしゃべれないし、まあいいや…。

「まったく私って不幸なのかなぁ。どう思うミヤぁ」

とるっちゃは頬を左右に限界まで引っ張りながらたずねた。

………どう…答えろと?

つねられてる頬は痛いし話すこともできないんじゃ返答なんてままならないぃ…。

「ぃぃぃぃぃぃ」

母音とハ行だけが今ボクのしゃべれる音だ。

さすがに

「ふほうあああいおおほうお」

不幸じゃないと思うよ。

何て言えないよねぇ、まったく。

がんばればカ行もしゃべれなくないけど…いや無理だ。

もうボクの頬は人類を超越している。

アニメに出てくるような驚異的な伸びだ。

るっちゃんは返答を期待しているのかしてないのか、頬を離そうとしない。

多分…楽しんでる。

楽しんでるというより…観察?

少しおもしろそうに微笑みながら。

「ぅぅぅぅっぅ!」

ボクがうなるとさすがにるっちゃんも分かったのか(分かってたとは思うけど)手をはなした。

ブルンと一瞬頬が揺れた後、ボクの頬は完全に収縮した。

さっきの伸びが異常なほどきれいに戻った。

ちょっと弾性力が弱ってたらさすがに困るけど…。

とボクは少し落ち着いたところで1つ咳払い。

「えーコホン」特に意味はない。

「別にるっちゃんは不幸じゃあないと思うよ?」

…………いちを答えた。

けどるっちゃんが本当にこの答えを求めてたのかは謎。

それを証拠にるっちゃんはボクの目を見たまま硬直。

少し驚いているような、瞳。

…………ええっと…。

沈黙した場でなんていえばいいんだろう…。

ぅぅぅぅぅ…思いつかない…。


本当のこと言うと。

るっちゃんって時々何考えてるか分からないときがあるんだよね。

何か思考フィールド展開!みたいな状態が時々あるんだ。

考えがまったく顔に出てなくて……。

……ま、まぁ簡単に言えば今がそう。

何も考えてないような無関心な瞳でボクの瞳を見つめる。

この状態のるっちゃんと見つめ合うのは初めてだ。

もともとるっちゃんとは仲の良い付き合いで大体何を考えてるかは予想がつく。

でも今のるっちゃんは何を考えてるのかさっぱり分からない。

目を見てるのに。

さっきも言ったとおり思考フィールド的な何かが展開されているんだ。

でもとりあえずは、悲しんでない。

ふぅ。

だが一安心する余裕はなかった。

るっちゃんはボクの瞳を見ている。

ボクはるっちゃんの瞳に吸い寄せられるように視界をはずせない。

視界の中心がるっちゃんの瞳によって吸い寄せられてるみたいに。

「……………」

「……………」


沈黙


ゴク…。


ボクのノドでツバが通った。

何が起こる?事故?事件?


スッとボクの頬に、るっちゃんの手の平が置かれた。


え?

何?

何をする気?

動揺と不安、そして期待(?)がボクの心を)ぎった。

何をされる?

what?

まだ高校生でしょ?

いや高校生でもあるけども…。

そういえば。

高校入っても、ずっと仲良し子吉の友達、としか思ってなかったな。

るっちゃんのこと。

思い改めれば、るっちゃんも女の子らしくなったんだよね。

見改める余裕はないけれど今思えば確かにるっちゃんの胸は大きい。

今やっと認めるよ。

そっか。

もう小学校の頃とは違うんだ。

いつまでも仲良し子吉っていくワケにも…いかないよね…。

ただ、どうしてもボクは目を閉じることができなかった。

こんな変なこと考えてるのに、ずっと動揺が止まらない。

目を閉じたら何も見えなくなってしまう。

それが…不安で…。

いつの間にかるっちゃんは何かを求めるような瞳をボクに向け続けていた。

あーいやーまってーまだ心の準備がぁぁーーー…!



そして…そのまま…………。



「ぃぃぃぃぃ」

ボクは自分の両頬が引っ張られていくことに気づいた。

なるほど…こういう考えですかるっちゃん!?

完全に伸びきったところでるっちゃんが軽く笑い出した。

「あははっミヤももう男の子ですかぁ?」

少し悪魔的な聞き方。

ぅぅ…この聞き方…嫌いだ…。

ボクは強引にるっちゃんの手を離した。

「ぅぅ…るっちゃん…意地悪ぅぅ」

「ごめんごめん。ちょーっとからかっただけだよ」

るっちゃんは少しいやらしげに微笑む。

そして窓近くの先生用の椅子に座った。

自由自在に回る回転式の椅子。

ボクならば座ったら2、3周はクルクルだろう。

目が回るのは自業自得だけどどうしても回りたくなっちゃうんだよ。

だけどるっちゃんはそんなことするワケがなく。

窓に背を向けていた椅子をクルリと回して窓の方へ。

そして窓の額に片ひじをつけ、握り拳に頬をのせる。

夕焼けの空。

そんな空のさらに奥を、遠くを、眺めているかのような憂鬱な、瞳。

ボクたちでは見れないような、そんな世界を見ているようなるっちゃん。



一 瞬 の 鼓 動 の 強 ま り



………!

…………。

きっとボクは……。


こんな憂鬱そうにどこかを眺めている。


るっちゃんのことが?


………………。


そうだ…。


きっと


きっと


そんなるっちゃんのことが…



好きなんだろうね。

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