事の発端はビーカー4つから
掃除を始めて早30分。
何とか床が見えるほど雑誌は片付いた。
その代償にゴミ箱は………ぁぁ。
あまりにエグい様にボクはゴミ箱を見るのをやめる。
一生懸命やっていたるっちゃんはというと。
「丸底フラスコ…スポイト…アルコールランプ…フライパン…、」
次々に器具の名前をこぼしながら鉄製の棚の整理をしていた。
うん、やっぱり真面目ですな。
でもフライパンなんてよく理科準備室にあるよね…。
どうせ長谷先生の 企み なんだろうけどさ。
…………。
ええっと…。
うん、ぁー…。
ちなみにボクはというと。
「ミヤぁ、大丈夫〜?」
るっちゃんがこちらを気にして話しかけてきた。
ボクは苦笑いしか今できず苦笑いして答える。
「うんぁぅだいじょぶ」
「でもさぁ珍しいよね」
るっちゃんは片づけをしながら会話を続けた。
そして、軽く笑いながら
「エロ本の表紙で気絶する人を私は初めて見たよ」
と……。
正直なとこ頭がショートしてしまったワケであって…。
簡潔に言うならば………。
掃除開始5分後気絶〜25分後意識回復
といったところ。
つまり5分しか掃除を手伝ってないって話ね。
ちょっと、というかかなり自分の学習能力に呆れちゃうよまったく。
高校生にもなって……。
「はぁ…」
思わずこぼれた、ため息。
どうしてだろう…昔からそういう…なんていうのかなぁ、えっと…ん〜ぁぁぁ…。
……………。
そう!18歳以上対象系が特にダメで…。
周りのそういう話に全然ついていけなかったりしたものだよ。
しかもそれは歳を重ねるごとにさらに困っていく。
無理に学習しようとしたこともあったけど…毎回…。
気絶、そして救急車、目が覚めれば病院。
という状況続きで…
もう諦めました
ってときにこんな雑誌の山なんだからなぁ…。
気絶だってするもんだって…。
でもるっちゃんもそれに気づいててなんで職員室行くとか先生呼ぶとかしなかったのかな。
………………。
もしかしてるっちゃんて結構冷たい…!?
いや、普段からぬるい感じは出てたけど(たまに毒舌だし)。
そういえばるっちゃんが本気になったのをボクは見たことがない。
いや、まてよ?
一度だけ…。
一度だけあった気がする。
確か中学3年のときだったかな。
るっちゃん、誰かがバカにされたのを怒ってその男子生徒をぼこ殴り…。
るっちゃんの3年のときについたあだ名が…。
『冷恐の姫』…。
ボクは一瞬ぶるりと震えながらるっちゃんを見た。
るっちゃんはこちらにパッと気づく。
そして不思議そうに見つめてきた。
ボクは先に目をそらし、そして首を戻す。
今ボクから見てそんな印象は存在しない。
それに冷恐って思ってるのは男子だけだったし。
………………。
ボクも男子だけどね?
例外だよ例外。
ボクはるっちゃんと仲良く、毎日を過ごせれば、それで満足かな。
でも他の友達との交流もほしいな〜。
なんとなく和む。
「ポワワ〜ンってなるのはいいけどそろそろ手伝ってくれない?」
ボクが振り向いたときにはるっちゃんはボクの目の前に。
ボクはほのぼのした表情を引き締めコクリ、と首を下げた。
「はいこれ、割ったら大変だからね」
「う、うん」
るっちゃんがボクに持たせたのはビーカー4つ。
片手に2つずつ。
ちなみに言うと…積み重なっております。
不安定な形でわざとるっちゃんはのせたのだ。
少し手元が狂ったらビーカーは粉砕し、強烈な音を発する。
それが最悪のケース。
ボクはそれをビクビクしないように恐れ、一歩一歩前へ進む。
るっちゃんはこれを奥のほうの部屋へ持っていって欲しいらしい。
そんなに遠くないから楽といえば楽。
だけど…。
「ぅぁぁぁぁぁ…!」
正直怖くて仕方ない。
歩いてたら落ちる!
そう思ったボクは足を止め手に精神集中をした。
でも手ブレだけでも落ちてしまうんじゃないかと思ってしまう。
助けて!助けてぇぇ!
口にできない心の叫び。
……だが、テレパシーとでも言うのだろうか。
るっちゃんが呆れた顔をしながらボクのすぐ後ろに立つ。
「ミヤ危なっかしくてしょうがないよ」
と言うとるっちゃんがボクの手の甲に、自分の手の平を合わせた。
両手、ピッタリと。
そんなことならビーカーもって欲しいと思いつつ我慢。
いや、なんていうの?あれですよあれです。
男としてなんですが…。
悪くないです。
だがるっちゃんは足を進めることができない。
ボクが止まっているから当然だけど。
「あのさミヤぁ、そろそろ動かない?」
「そ、そうは言っても動けないものだよ…怖いもの」
「とりあえずミヤが動くまで私も動けないから…」
「ぅぅ…」
そう言われてもボクの心が「足を動かせ!」と思うことはない。
人間、恐怖で足がすくむこともあるもんだ。
とそんなボクもるっちゃんも動けないとき。
理科準備室の
戸が
閉まり
ガチャリという
鍵のかかる音が
聞こえてきた。