事の発端は雷が止んだから
「………」
「――――……」
「………グス」
「………(ふぅ)…」
「……………」
「……………」
「…………」
「ん〜〜……!」
「…………グス」
……………。
「あのさ。るっちゃん?」
「…………何………」
「雷も治まりましたのでそろそろー離れていただいてもよろしいでしょうか…?」
ボクは色々悩んだ末、敬語を使うことにした。
いや、別に何かに悩んだワケじゃないかもしれないけれど。
ちなみに正直なところ本音ではない。
1人の日本人男子としてはこのままでも尚良い。
だがしかし。
ボクの肉体的ダメージがあまりにも大きすぎるので
(いや、大きすぎるというより一箇所を集中的に痛めてくるのでそこに痛みが集中している)
離れてもらわないとこっちもそろそろ神経に到達してしまう。
理性と本能が入り混じった矛盾ではあるけれど。
これはしょうがないことだ。ウン。しょうがない。
るっちゃんは少し愚痴るととうとう決断を決めたようだ。
「……………ヤダ…」
…………はい?
あーーーお決まりパート1ですかこれ?え?
腰にまわった腕が力を増す。
限界!!
「ちょっ!やめ!痛い痛い痛い!!!」
腰の骨が圧迫!圧迫!
まさか――。
まさかとは思うけれど。
ほんと例えばの話なんだけどさ。
もし。
もしね?
もし雷が止んだとき既にるっちゃんはバリバリ元気回復していたら?
今…この行為の意味はなんだと思う?
ギリギリと締め付けるこの『攻撃』は…何だと思う?
「フッフッフッフッフッフ……」
るっちゃんが目を光らせながらこちらを見た。
その瞳にはやはり昔の『冷恐の姫』の面影が――。
しまった…。
るっちゃんのとっておきの特徴を忘れていたよ…。
「・ ・ ・ 。」
ボクしか知らない特別な情報。
るっちゃんの羞恥がMAXを上回るとるっちゃんは―――。
…これ以上は言わなくても……いいよね。
そのままバタリと後ろに倒されその上に乗りかかられる。
ものすごくドキドキする。
『この』るっちゃんでなければ別のドキドキができたんだろうけれど。
今は違う。
そんなラブコメで言い表せるようなドキドキじゃあないんだよ!?
ボクは右手首をつかまれた。
多分るっちゃんの指にボクの血液が流れる感覚がきているんだろう…。
しばらくボクの指を眺めるるっちゃん。
何か含みのある嫌らしげな笑み。
ボクから見てはもう悪魔の微笑にしか見えません。
るっちゃんはさきほどから薬指をじぃーっと眺めている。
ボクの薬指がそんなに珍しいのだろうか。
「あーえーっとるっちゃん…!?落ち着かない?ネェ?落ち着こうよ?」
説得?に耳も傾けない女王瑠音。
そしてその女王様はゆっくりと少しだけ口を開けた。
それは何かを話す為ではなく、何かを食べる為の開け方。
脳がフル回転し、状況を把握しようと試みるも何度もエラー。
おそらくボクには一生この状況を理解することなんてできないんだ。
薬指に近づく女王の唇。
いや、正確には、歯だ。
女王はこの状況をそんな風に楽しんでいるワケではない。
確実に目覚め治ったS、サディス……まぁいいや。
ぁぁぁぁぁ。
助かるのかな。
ボクは。
この理科準備室から脱出することはできるのだろうか。
いや、そもそもここから生きて帰れるのだろうか。
とりあえず忠告。
もしボクが倒れていたら――――
その犯人は―――
絶対と言っていい―――
るっちゃんであると―――
ボクの薬指の第一関節に、食い込むような激痛がはしる。
「らめぇぇぇぇぇぇ!」
男とは思えないほどの悲鳴が、学校中に響きわたった。