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コール、レスポンス  作者: 佐原凍理
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後編:高橋は呼びかける

なんかちょっと締めを失敗した気がします。よろしくお願いします。

 登山の約束をしてから一週間。俺達は麓に集まる予定だった。俺は寝坊してしまい、遅刻する旨をみんなに伝えて謝った。みんなはもう集まっていたらしい。しかし、田中が急用が入ったと言ってドタキャンしやがった。もともとこの登山を言い出したのはあいつだし、別に楽しみにしていたわけでもないから別にいい。しかし、加藤は楽しみにしていたらしく、きちんと装備を整えていたのに、と愚痴っていた、とメッセージが送られてきた。その装備は、遭難しても数日間は生き残れそうなほどらしい。ただ、今回登ろうとしていた山はさして高くも広くもない。携帯の電波だって普通に届くし、最悪電源さえ残っていれば自分でレスキューを呼ぶことだってできるだろう。だから、正直そんなに装備は必要ない。結局、俺はそのまま二度寝した。せっかく空けた休日が暇になってしまったからである。

 そして4日が経った。あれから、加藤と連絡がつかなくなっていた。最初は加藤を残して帰ってしまった俺達に腹を立てているのかと思っていたが、あいつの家に直接行ったやつがいないのを確認したらしい。ちょうど外出していただけではないかと思ったが、郵便物が溜まっていたらしい。加藤は変なところで几帳面で、少なくとも郵便物は溜めないようにしているというのは聞いていた。偶然回収を忘れているか体調を崩して寝ているかあたりではないかとも思ったが、一応不安なものは不安なので、念のために電話をかけてみた。これまでずっと、電話をかけても圏外か電源が切られている、と音声が流れるだけだった。しかし、今回は違ったらしい。風の吹く音が聞こえてきた。

「もしもし、加藤か?」

とりあえず呼びかけてみる。電話番号を登録しているので間違い電話はありえないが、念のためだ。

「もしもし、加藤だ。その声は…もしかして田中か?」

俺は田中ではない。約束をしておいて当日にドタキャンするような奴では決してない。

「何言ってるんだ、高橋だよ。登山の約束を取り消しになったのに数日消息不明になるとは、お前は何をやってるんだよ?」

なにはともあれ通話できてよかった。声を聞く限りまあまあ元気そうではある。そして少し間があって、返事があった。

「助けてくれないか?まだ遭難してるんだよ。例の山で」

「どういうことだよ?」

驚いてすぐに尋ねてしまった。登山は中止になったのではなかったのか?それとも、加藤は一人で決行してしまったのだろうか。まあ、加藤のことだしやりそうではあるが。

「とぼけてくれるなよ。俺達は一緒に登って、遭難したんじゃないか。それでみんなで別のルートから降りてみようって話になったんじゃないか」

こいつは何を言っているんだ?一緒に登っただと?もしかして俺が二度寝を決め込んだあと、せっかくだし皆で登ろうという話になったのか?いや、それでも俺を含んでいるような言い回しになるのはおかしい。俺は間違いなくあの日寝坊して、家から出ることなく登山の中止を聞いたのだから。

「冗談きついぞ、お前。4日も音信不通になりやがって、みんな心配してたんだからな」

とりあえず少し怒る。みんなが心配してたのは事実だし、おふざけに乗るより先にちょっと説教したっていいだろう。

「4日?まだ俺達が登山してから3日しか経ってないだろ?それにふざけてるのはお前のほうだろ」

なんだ、こいつは。もしかして時間感覚が狂っているのか?俺達は確かに4日前に約束をしていた。それは間違いない。しかし、こいつの中では違うらしい。意味がわからない。

「もういい、一旦切るからな。あとでまたかけ直すからその時はふざけるなよ」

加藤が何か言いかけていたようだが、俺は容赦なく通話を切る。そして、他の友達に加藤と連絡がついたことを報告する。ちょうど他の友達も加藤らしき人物の目撃情報を入手していたらしい。その話によると、そいつは3日前にあの山の麓で一人で何かをブツブツと呟きながら、山に吸い込まれるようにして消えていったらしい。しかし、消えていくにしてもあの山はそんなに広くないし、登山道を整備されているから、すぐに視界から消えるということはなかなかないはずだ。特に、麓からのルートならどこから入ってもしばらく麓が見えるようになっている。ならばなぜそんな言い方になったのか。まさか実際に消えたわけではあるまい。というか、4日前に何があったのか。他の友達いわく、やはり加藤はせっかくということで一人で登山を決行していたらしい。そのときにおかしくなってしまったのだろうか。山には人ならざるものが住んでいて人に悪さをするというが、まさかこんな人が踏みいって、整備された山に出てくるわけがないだろう。大体、そんなものが実際にいるわけがない。とりあえず、俺は助けを求められたことを告げ、あの山にもう一度行こうと提案した。イタズラにせよ本当のことだったにせよ、あの山に行けばわかることだ。幸い、みんなこの提案に乗ってくれた。

 そしてその翌日、加藤を除く全員が山の麓にいた。今度は田中もちゃんといた。田中は若干責任を感じているのか重苦しい表情をしているが、さすがにイタズラだろうしそんなに重く捉える必要はないだろう。とりあえず、二人組に別れて捜索を始めることにした。これなら遭難することがあっても大丈夫だろう。そんなことはありえないが。

 夕方になっても、加藤は見つからなかった。電話をかけてみたが、またしても圏外か電源が切られている、という音声が流れるだけである。ここは圏外じゃないし、第一同じ場所にいるなら繋がるはずであろう。ならばなぜ?結局、今日のところは諦めて、次の休日にまた集まることになった。

 しかし、加藤はいつになっても見つからなかった。あれからもう電話が繋がることもなかったし、家を訪ねても誰もいなかった。相変わらず郵便物は溜まったままで、家主の不在を静かに主張していた。加藤はどこに消えてしまったのだろう?警察に届けは出したものの、そちらの捜索も難航しているようで、まるで神隠しにでも遭ってしまったかのようだ。あのとき、通話を切らなければよかった。そうすれば今も、呼びかければ応答してくれたかもしれないのに。俺は後悔し、そして静かにあきらめた。

読了ありがとうございました。感想を頂けると幸いです。

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