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叶わぬ恋

「もうすっかり日が暮れちゃいましたね。」

 少し冷えてきたなぁ…と両腕をさする莉子。


「ごめんな、暗くなるまで付き合わせちゃって。」

 申し訳なさそうに湊は頭を下げる。


「いえ、こちらこそ楽しかったし。ありがとうございました!」

 昼間の湊の彼女が頭にちらつくものの、今目の前に間違いなくいてくれる彼に莉子は十分心が満たされていた。


 スッと湊が着ていた上着を莉子の肩にかける。

「寒くなって来たから…。返すのはいつでもいいよ。」

 そう優しく微笑む。


「ありがとうございます…。」

 湊の匂いに包まれ莉子はどんどん彼に心を奪われていくことが怖くなってくる。


「一人で帰れるか?」

 紳士の様に莉子を心配する湊。


「はい、まだ六時だし、家も近いんで大丈夫です。

 先生…寒くないですか?なんだかごめんなさい。」

 湊の家がどれほど遠いのかは分からないが、きっと夜風にさらされるのは湊の方が長いに違いない。


「俺は大丈夫だよ。寒くなったら走って帰るから。」

 冗談を言って莉子の心配を跳ね返す。


「じゃあな、月曜、ちゃんと遅刻しないでくるんだぞ!!」

 莉子の頭をくしゃくしゃっと撫でて背を向け歩き出す。


「はい…。」

 莉子の返事が届いているかは分からないが、湊の温もりの残ったコートに包まれ、今日は間違いなく湊と一瞬でも心が通いあった気がしていた。






 湊は学校の近くのアパートで三月から一人暮らしをしている。


 真っ暗な誰もいない部屋の電気をつけ、はぁ…っとソファーに雪崩れ込む。

 今日一日、一体自分はどうしてしまったんだろう…?

 しかも自分の教え子である莉子を引き止めて公園で二人で休日に読書だなんて…。


「どうしたんだ…俺!!」

 自分のことが分からなさすぎて、頭をぐしゃぐしゃにしながら抱え込む。


 ふとスマホをポケットから取り出すと、数件着信が来ていた。

 履歴を開いてみると全て香奈美からだった。


 もともと香奈美とデートの予定だったはずなのに…。

 莉子と二人でいたあの空間で、湊の中に香奈美の存在が全く無かったことが不思議でならなかった。


 香奈美と湊は大学から付き合いだしてもう四年にもなる。

 結婚も考えるか…と思っていた矢先の今日の出来事だった。



 湊はコーヒーを淹れたマグカップを持ちベランダに出た。



 肌寒い春の風を感じながら頭を冷やす。



「羽鳥…莉子…。」



 彼女の名前を呟きハッとする。

 また莉子の事を無意識に考えていた。



「………。」




 空を見上げると小さな星がささやかに輝いていた。

 自分の本当の気持ちを探すかの様に、湊はじっと夜空を見つめるのだった…。







 莉子は自分の部屋でしゃがみこみ、ずっと湊のコートを脱げないでいた。

 脱いでしまったら、湊の温もりも消え、今日の出来事が全て夢で終わってしまうような気がした。


 なぜか、涙がポロポロと流れ落ちる。

 この恋が上手くいかない結末なんて、分かりきっていた。


「でも…、もう少しだけ…。」

 もう少しだけ…、莉子は湊を独り占めしたかった…。







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