共通点
「莉子!ちょっと待ってって!」
無意識に小走りになっている莉子を追いかけるように斗真が声をかける。
「あ、ご、ごめん…。」
莉子は我に帰り足を止めようやく斗真を視界に入れる。
「どうした?急に?」
急に様子がおかしくなった莉子を心配する。
「……なんでもないの。私最近、本に没頭しすぎておかしくなっちゃってるのかも。」
『あはは…』と力なく笑う彼女に斗真は本当にそれだけではないなと確信する。
「莉子……。まさか……。」
『新井先生の事好きなのか?』口元まで出かかった言葉を再び飲み込む。
「……?何?」
莉子は斗真の顔色から何かを察したのではないかと不安がよぎる。
「…いや、なんでもないよ。」
『今はそう言うしかないな…』斗真は静かに俯く。
「………。」
莉子はそれ以上は聞けなかった。
正解を言われるのが怖かったのだ。
「ね、映画行こうよ!」
仕切り直すように斗真の手を引く。
「あ、あぁ…。」
複雑な思いで斗真は莉子と並んで歩いて行く…。
一方、湊は自分でも理解できない莉子への感情を消化できずにいた。
目の前にいる自分の彼女である井田香奈美の前で、湊は心ここに在らずになってしまう。
「湊…?本当に具合大丈夫??」
お互い社会人になって、学生の頃ように簡単に逢えなくなった二人は、今日久々にデートの約束をしていた。
「香奈美、ごめんな。なんだか今日の俺おかしいよな?」
もちろんいつもと様子が違うことは見ての通りだったが、湊自身なぜおかしくなっているのか分からないことにずっと気持ちの悪さがつきまとっていた。
「湊…。新しく担任も持って色々疲れてるんじゃない?私も新しい職場で色々気を遣う事が多くて…。
デートするのまた別の日にしても良いのよ?」
湊を気遣って香奈美は笑顔を作る。
「…そうか?せっかく来てもらったのにごめんな?また連絡するから…。」
あっさりと帰る選択をする湊に香奈美は違和感を持つ。
いつもの湊なら、そうは言っても自分との時間を大切にしてくれる人だと思っていた。
よっぽど具合が悪いのかと、香奈美は残念だが今日は仕方がないか…と『うん』と返事をする。
スッと席を立ち伝票を手に取る湊。
「ごめん、俺先帰るな。」
そう言って香奈美をその場に置いていく。
『送ってもくれないのね…。』
寂しそうに香奈美は湊の背を見送った…。
湊は何かに取り憑かれたように走り出す。
行く先なんか分からない。
でも、なぜか居ても立っても居られない。
頭の中に莉子の顔がよぎる。
『一体なんなんだ……?なんで彼女のことがこんなに気になるんだ…?』
上がる息を感じながらも足が止まらない。
どれだけ走っただろう…。
なぜ彼女を捜しているのか、それすらもわからないまま空がオレンジ色に染まっていく。
疲れ果てた湊は、結局図書館の隣の公園に辿り着きベンチに腰掛ける。
「はぁ……。」
ぐったりとうな垂れ、自分は一体何をやっているんだと情けなくなる。
カサッ
音がする方に顔を向けるとそこには散々捜し回っていた莉子が驚いた顔で立っていた。
「……先生!どうしたんですか?こんな所で?」
莉子は映画の後斗真と別れ、最初に行きはぐった図書館に帰り道、足を運んでいたのだ。
「羽鳥さん…。」
莉子を捜していたのは間違いない。
でもなぜ捜していたのか分からない。
うまく伝えられないが、彼女を見つけられたことを嬉しく感じている自分がいる…。
「なぁ、暫くここに座っていてくれないか…?」
莉子を探して走り回っていた事など言えるはずもなかったが、彼女にもう側を離れて欲しくなかった。
「……?…はい。」
緊張しながら湊の隣に座る。
「…で、あの、なんですか?」
意味不明な湊の行動に聞かずにはいられない。
湊は少し考えて、
「…本、借りてきたんだろ?秋田譲治?」
莉子は笑顔になり、
「はい!一通り読んだつもりだったんですけど、また初期の作品から読み返してるんです。」
「そっか!わかるわかる!!深すぎて何度読み返しても新しい発見が見つけられるよな!」
テンションの上がる湊。
「先生も読みました?これ?」
そっと借りてきた本を差し出す。
「あぁ、でも表紙見るとまた読みたくなるな。」
パラパラとページをめくる。
「でしょ!!」
嬉しそうに湊を見つめ微笑む莉子は、本の中にまた目線を落とす。
パァッと一瞬華やいだ彼女の笑顔に湊は視線を外せない。
湊の視線を感じ、
「ん?なんかついてます?」
カバンから鏡を取り出す莉子を見て、湊は笑みをこぼす。
「あ、やっと笑いましたね!先生深刻そうな顔してたから。」
安心した莉子は何気なしに飴を渡す。
「疲れた時は甘いものが一番って、お母さんが言ってました。」
ふふと笑いながら再び本の世界に入っていく。
湊はもらった飴を口に放り込み爽やかに広がるレモンの味が心地よかった。
そうして二人は日が完全に落ちるまで、ベンチで並んで読みふける。
時には感想を話したり、切なく感じた事を共有したり…。
今まで味わうことのなかった特別な時間が、二人を包み込むかのように流れてくのだった。