表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/70

婚姻届

「さあ、今夜は呑もう!!」

 もう婿に入れたような気持ちで湊と盃を交わす莉子の父。



「はい、お義父さん!」

 トクトクと休みなく注がれるお酒に普段あまり呑まない湊は酔いがどんどん回っていく。



「今夜は本当にめでたい!!こんな娘のどこが良かったんだ?」

 真っ赤な顔で湊に絡む父。



「ちょっと、どこが良かったってお父さん!!」

 そんな言い方ないじゃない!と言わんばかりに頬を膨らます。



「莉子さんは…、何もかもが理想の女性でした…。」

 ひゃっくりを挟めながら莉子との懐かしい思い出に浸る様に語る湊。



「お義父さんにも…、お義母さんにも……、莉子をこの世に産んでくれて本当にありがとうございますって言いたいですっ!!」

 と叫んだ途端ソファーに突っ伏しながらウトウトとする湊。



「おいおい湊くん、もう寝るのかい??」

 テーブルの上に転がるとっくりを眺めて寂しそうに呟く父。



「お父さん!!もういい加減にしてよ!先生酔い潰れちゃったじゃない!!」

 莉子は父を窘めるようにキツイ視線を投げつける。



「すまんすまん!もう寝室に連れてってやりなさい。今日は色々あって疲れたんだろう。」

 やれやれと手酌する父。



「先生!ほら移動しますよ!」

 やっとの事で立ち上がった湊は莉子にグッともたれかかる。



「うぅ……。」

 具合悪そうに呻く湊が心配になり、暫く様子を見ているからと莉子の部屋に連れて行く。



 ベットにスーツのまま転がる様になだれ込み寝息を立てる湊。

 こんな姿、なかなか見ることが出来ないなぁと、微笑みながら観察してしまう。



「先生一人に背負い込ませちゃって……、ごめんなさい。」

 湊の髪を優しく撫でながら寝顔を見つめる莉子。



 途端に強い力で胸に引き寄せられ、

「りこぉ……。ごめんなぁ……。おれこんなんで……なさけなくって………。」

 いつに無く弱音が酔った勢いで零れる湊。


 莉子は湊の胸に耳を当て心臓の音を聞きながら、こんな弱い一面を持っている彼もまた、愛おしくて仕方がなかった。



「先生…、大丈夫。今日は私が守ってあげるから……。」

 優しく頰にキスをして彼の寝顔をじっと見つめるのだった……。







 気がつけば太陽はもう真上まで昇っていた。


「イタタ……。」

 湊は二日酔いの頭を抱えながら、横でスヤスヤ寝息を立てている莉子を見つけ微笑む。


 時計を見るともう12時半を指していた。

 大掃除などあれば手伝おうと意気込んでいたのに、すっかり寝坊してしまった自分が嫌になる。


 カーテンを開けると外の気温からは想像できない様な明るい陽射しが雪崩れ込んでくる。

 その光に押される様に莉子も目を擦りながら起き上がる。


 湊は今日、なによりも先に、自分の父に莉子との事を連絡をしなければと思っていた。



「莉子、今からうちの親父に連絡するんだけど…、よかったら少しだけでも代わってもらえるかな??」

 照れ臭そうに頭を掻く。


「もちろん!」

 そうは言ったもののどんな人なのか全く話も聞いていないし、怖い人だったらどうしよう…と緊張が走る。


 そんな莉子の表情を見て、

「大丈夫だよ。うちの親父は穏やかで普通の人だよ。父一人、子一人だったから、きっと莉子の事知ったら喜ぶよ。」

 そう安心させる様に莉子の頭をポンと叩く。



「あ、もしもし?親父?俺、湊だけど、久しぶり。」

 そう綻んだ表情で話し出す。


「実は………。」

 今まで起こった事、莉子の事、莉子の両親の事、結婚の事…、全て隠さずに伝える湊。

 電話の向こうの湊のお義父さんはとても驚いていた様だったが嬉しそうな声が電話越しに聞こえてくる。



「莉子…、ちょっと代わってくれる?」

 携帯を渡されると、ゴクリと緊張のあまり喉がなってしまう莉子。

 そんな彼女を微笑みながら横で見守る。



「あ、あの…初めまして、羽鳥莉子です。湊さんには…本当にお世話になっています。」

 紹介された彼女の言うセリフかな?とクスクス笑いながらじっと聞き入る湊。



 電話の向こうから穏やかで優しそうな…湊にそっくりの声が聞こえてくる。

「莉子さん。湊の選んだ人だから、きっと間違なくステキなお嬢さんなんだろうね。湊の事…、よろしく頼むよ。あいつは母親が小さい頃からいなかったから…たくさん優しくしてやってくれるかな?」

 まるで目の前で微笑んでいる姿が思い浮かぶ様な声に、

「はい…。湊さんの事、大切にします!」

 莉子は勇ましく誓う。


「おいおい、なんだか俺が言うような言葉だな。」

 返された携帯を手に取りふふふと笑う湊。



「親父。そう言うわけで、すぐにでも籍を入れたいんだ。年明けでいいから、莉子に会わせる時間作ってもらってもいいかな?」

 急かせてしまって申し訳なさそうに湊は言う。



「急いでいる様だから、籍はもう入れてしまって構わないよ。後からゆっくり連れて来なさい。湊の事も、莉子さんの事も、ちゃんと信用してるから。何より、湊が選んだ人なんだから、何も言うことはないよ。」

『じゃあな』そう満足そうに電話を切る。



 はぁ…と安心する様なため息をついて、莉子を見つめる。


「莉子…。今日から、夫婦になろうか……!」


「……はい!!」

 ギュッと湊に抱きつく莉子。



 昨日事前に莉子の父が気をきかせて取ってきてくれた婚姻届をわたされた。

 二人は間違えない様に慎重に記入をしていく。


「先生…綺麗な字……。」

 改めて書かれた美しい文字に目を奪われる。


「毎日板書、見てただろ?」

 何を今更と微笑む。


「この文字は…先生そのものだね。美しくて、真っ直ぐで…。惚れ惚れしちゃう。」

 改めて、湊の魅力を再確認して惚れ直す莉子。


 顔を赤く染めながら莉子の言葉を素直に受け止める。

「莉子…ありがとう…。」

 コツリと頭を寄せて笑い合う。



 何が起きたって、もう私たちは離れない。

 これから起こるどんな困難にも負けない!そう心に強く誓う。



 柔らかな午後の日差しを浴びながら、二人は手を繋いで役所に向かう。

 もう誰に見られようが構わない。



 今日、私たちは晴れて夫婦になるのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ