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「申し訳無いんだが……、君には諦めてもらっていいかな……。」

 そう言いづらそうに湊の頭の中で涼の声が響く。



「冗談じゃない!!諦められるわけないだろ!!」

 涼の声に一歩も譲るつもりのない湊はすぐさま反論する。



「いちいち話さなくてももう分かるだろう?俺達が生まれ変わろうと決めなければ君らの存在は始めからなかったんだ!」

 湊の気持ちは十分分かっている……上で、涼は強気にでていく。



 涼は莉子の姿を見た時からすぐに華鈴だと分かっていた。

 もたついている湊の行動にいつも痺れを切らし、莉子との距離が縮まるよう、無意識の中で煽ってきた。


 まさか自分達にもう一度生身の人間として生きていくチャンスが与えられるなんて思ってもいなかった涼は、当初、もともと彼女のいる湊の気持ちを、どうにか華鈴の居る莉子に向く様に、強引に何度も引き合わせようと必死になっていた。


 教師と生徒の立場で彼女と再会する事になるなんて…、なんて神様は意地悪なのだろう…、そう恨んだこともあった。



「君は俺が莉子さんと引き合わせるように仕組んだ結果、たまたま付き合うようになっただけだろ?」

 涼は棘のある言い方で湊を追い詰める。


「そうなのか……?俺が莉子を想っていた気持ちは、全部あなたに操作されていたものだっていうのか??」

 湊は涼を睨みつけた。



「………だったら……、なんであなたとの意識が別になっている今、こんなにも莉子を失いたくない思いでいっぱいなのか……、説明していただけますか……?」

 涙目になり怒りで震える湊。



 涼は分かっていた。

 湊がいつのまにか自分の煽りをとっくに越えて自分から莉子を目で追い、彼女への想いを強く胸に抱きながら大きな葛藤の毎日を送っていた事を…。


 教師と生徒の壁を乗り越え二人の想いが繋がった時の嬉しさ…、逢いたい想いをいつも堪えながら一人アパートで過ごす寂しい夜…。


 彼女にぴったりの婚約指輪を、一切の欲を取っ払いようやく貯めたお金で購入した日も……涼はずっと湊のそんな健気な姿を見てきた。


 自分にはなかった様々な困難を挫けることなく莉子をひたすら信じ、一途に愛してきた日々を羨ましいくらいに……。




「順風満帆に愛を育めたあなたは、ずっと近くでこれでもかという困難に打ちひしがれる俺の事を鼻で笑っていたのかもしれない……。でも、どんなに笑われようと、軽蔑されようと……、俺は莉子さえ側にいてくれれば何だって耐えられる。」

 湊は拳をギュッと握りしめる。



「………。」

『君の健闘はちゃんと見ていたよ…。』そう出かかった言葉を呑み込みながら、華鈴を想う。


 華鈴は……どちらの答えを出したのだろうか……?

 彼女なら……きっと………。


 涼の頬を涙が伝う。




「湊くん……。俺の出来なかった事……しっかりと成し遂げると約束してくれ…。」

 涼は絞り出すように湊に伝える。



 湊は驚き、

「それって……。」

 頭の中の涼の表情を伺う。



「俺は……、諦めるよ。俺の兄さんの事も……君に託すから。」

 涼の身体が金色に輝き始める。



「きっと……、華鈴もこっちを選ぶって……思ったんだ……。」

 涼の声は打って変わって穏やかな声になる。



「幸せな人生を……!!」

 そう最後に叫んでふっと静かに消えていく。








「………涼さん!!」

 ガバッと起き上がって一番に目に入ったのは真っ白な壁だった。


 莉子の父が心配そうに湊を覗き込む。

「おい、大丈夫か??」



「……莉子……莉子は?!」

 急いでベットから降りようとする湊を必死に止める父。



「さっき目が覚めてな…。湊くんと同じように取り乱して君の名前を呼びながら錯乱してたんで、鎮静剤打ってもらって今静かに寝てるよ…。二人とも、あんな事故で一切怪我がないなんて、奇跡だって病院の先生が言ってたよ。」

 ホッとしたように微笑む莉子の父。



「そうか……。あぁ、怪我がなくて良かった……。莉子に会えますか?」

 湊はホッと胸を撫で下ろし早く莉子に逢いたいと願う。



 莉子の父は渋い顔をしながら、

「それがな……。今はちょっと会わない方がいいかもしれない…。君と莉子の仲が何かしらで学校の耳に入ったみたいで……。ちょっとした問題になってるようなんだ。今は冬休みに入っているから生徒の間ではまだ広まったりはしていないと思うのだが……。」

 腕を組んで考え込む父。


 湊は事故直前、桃に二人の所を目撃された事を思い出す。



『まずいな………。』

 次々と降りかかる困難に、湊は折れそうになる心を必死で取り繕うのだった…。


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