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絡まる恋模様

「じゃあね、杏!」

 すっかり元気になった莉子を見て杏は安心した表情で手を振る。


 莉子は家に帰る前に直接塾へ寄る。


 すっかり日が落ちるのが早くなった帰り道、街灯の灯りがポツポツと灯り出す。


 昨日一日、浮かれてしまった自分を戒める為にしっかりと今日は勉強しようと意気込むのだった。




 いつも取っている授業のほかに、自習室で復習をしていく。

 時計を見ればあっという間に10時半になっていた。




「はぁ〜今日は結構はかどったなぁ…!!」

 大きく伸びをして片付けを始めようとした時だった。



 いつものように悠太が莉子の元に来て、

「送ってくよ。」

 変わらぬ笑顔で声をかける。



 一瞬昨日の湊と悠太の様子を思い出し、躊躇ったが、やはり夜道は心細いかな…と悠太の厚意に甘えてしまう。





 冷え込みが最近では激しくなり、思わず手を擦り合わせる莉子。

「すっかり寒くなりましたね…。」

 しみじみと秋の終わりを感じ悠太に語りかける。



「そうだね…。羽鳥さん、頑張ってるから…体調壊さないようにね。」

 悠太の持っていたカイロをそっと手渡す。



「いいんですか?先生、寒くなっちゃう…。」

 莉子はありがたいと思いながらも悠太を心配する。



「俺は大丈夫だよ。」

 笑いながら白い息を吐く。



「……なぁ、羽鳥さんは…湊と付き合ってるんだろ?」

 突然話題が変わり、莉子は戸惑う。



「はい…、一応…。」

 昨日湊がはっきり自分と付き合っていることを悠太に伝えていたのを思い出して、正直に答える。



「…なんで、先生っていう立場の人と…そういう事になったの?」

 悠太は気になって仕方がなかった。

 莉子が先生という立場の人間に憧れているだけなら、自分にもまだチャンスはあるんじゃないかと…。



「たまたま…好きになった人が先生だったってだけですよ。」

 自分の期待していた答えとは真逆の回答が即座に莉子の口から出てしまった事にがっくりする。



「そう……なのか。でも、あいつもあいつだよな。生徒に手を出すなんて、羽鳥さんには悪いけどなかなか最低なことするよな。」

 意地悪な顔で湊を思い浮かべる。



「私が最初に告白したんです。それまで恋愛なんて全く興味が無くて…。でも、新井先生とは…ずっと前から知っていたような…なんだか懐かしい感じがずっとあって…。それが私だけじゃなくて、新井先生も同じように思っていてくれたんです。信じてもらえないかもしれないけど…前世から繋がってたっていうか…。」

 莉子は上手く伝えられないことを残念に思う。



「運命の相手だったって事…?」

 莉子はコクリと頷く。



「そんな運命の相手より、もっと羽鳥さんのそばで大切にしてくれるいい男がいたらどうする??」

 悠太は遠回しに莉子の気持ちを探る。



「そんな人…いるかな…?………きっといたとしても目に入らないですよ、たぶん。私、新井先生に出逢うために生まれてきたんだって、最近よく感じることがあるんです。目の前にいなくても、いつも心は先生に惹かれてる。この気持ちは何があったって揺るぎないものだって、自信持って言えるし。」

 頰を赤く染めながら惚気るように話す莉子。



 悠太はそんな莉子を見ていると、湊への嫉妬が噴き出しそうになる。



「本当に揺るぎないない気持ちかどうか……試してみる?」

 悠太の表情は一変し、先生の顔から男性の顔へと変わる。



「佐々木先生……?」

 莉子は急に変わった空気を感じ、恐る恐る悠太を見上げる。



 静かに流れる沈黙の後、突然悠太の胸に引き寄せられる。


「ちょっと…、佐々木先生!」

 莉子は振り解こうと必死に抵抗するが、大人の男性の力には敵わない。


「先生…!……湊!助けて!!」

 近づいてくる悠太の顔に莉子は逃れることができず、湊の名前必死に呼ぶ。



 その莉子の口を塞ごうと悠太は強引にキスをする。


「………ん……!」

 塞がれた莉子の唇から声が漏れる。



 その時だった。

 物凄い力で悠太から引き離され、莉子の目の前で大きく手を振りかざす湊の姿があった。

 悠太は殴り飛ばされて、地面に打ち付けられる。



「先生……!」

 震えながら莉子は湊にしがみつく。



「莉子……!ごめん…!俺が迎えに行けばよかったのに……!」

 優しく守るように莉子を抱きしめる。


 涙を流しながら首を横に振る莉子。



「悠太!!俺はお前の事絶対に許さないからな!!」

 グッと悠太の胸ぐらを掴む湊。



「……は?自分の生徒に手を出して香奈美の事捨てたお前が何偉そうなこと言ってんだよ?お前のやってることはなぁ、俺のした事よりも遥かに酷いことやってんだぞ!!」

 悠太の言葉が胸に刺さる湊。

 自分では筋を通して莉子と付き合い始めたつもりだったが、確かに香奈美の立場になって考えればどうしたって納得いかないだろう…。



「ほらな…。何も言い返せないくせによ……。」

 殴られ口の中が切れた血を吐き出す。





「悠太!!みっともない事もうやめて!!」

 どこか聞き覚えのある、透明な女性の声のする方を一斉に振り向くと、そこには香奈美が立っていた。



「湊…。悠太から聞いたわ…。私と別れた理由…。」

 悲しげな表情で湊に近寄る香奈美。



「私、あなたの事本当に好きだったのよ…。結婚したかった…。」

 つうと頬を涙が伝う。



「でもね…、湊が別れを私に切り出した時……、中途半端な気持ちで言った言葉じゃないって思ったの…。

 あなたは、いつも私に誠実だったし…、誰に対しても自分のことはさて置き相手の事を考えてくれる人でしょう?そのあなたが……、私ともう付き合えないって言ったんだから…、どんなにごねても無駄だなってすぐに思ったわ…。」

 莉子に近寄り手を差し伸べる。


「悔しいけど…、あなたには私は敵わなかったみたい。湊の事…よろしくね。」

 そう言ってニッコリと微笑む。



「香奈美さん……。」

 莉子も次々とこぼれ落ちる涙を止められない。



「悠太!あなたもこの子の事、好きなのね?」

 悠太の方に振り向く。


「まだ女子高生の純粋な子に、勝ち目のないあなたの気持ちを押し付けたところで、どうにもならないことくらい、最初からわかってたでしょう?」

 香奈美は悠太を睨みつける。



「あなたから連絡が来た時、嫌な予感がしたのよ……。気になってきてみれば、こんな酷いこと…!」

 香奈美は悠太の前に立ちはだかる。



「さあ、帰るわよ!愚痴なら私がいくらでも聞いてあげるから……!」

 悠太だけに向けた優しい香奈美の眼差しは、地に落ちた彼の心をすくい上げる。



「じゃあ、二人とも、お幸せにね!」

 片手を上げて香奈美は悠太と暗闇を歩き出す。



 湊は莉子をギュッと抱きしめる。


「莉子……。怖い思いさせて本当にごめんな……。」

 月明かりに照らされた湊の目には涙が光っていた。



 莉子は湊の気持ちを受け止めるように、背中に回した腕の力を強めるのだった…。



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