油断大敵
教室の窓際の席で、いつもと変わらず外を眺める莉子。
朝練を終えた生徒たちはぞろぞろと昇降口に向かって歩き出す。
見える景色はいつもと何ら変わる事はないが、莉子の心は少しばかり高い温度で朝のHRを待つ。
湊はきっといつもと変わらない顔をして出欠を取るんだろうなぁ…と朝の彼の様子を思い浮かべながらふふふと思い出し笑いをしてしまう莉子。
「おい!何ニヤニヤしてるんだ?」
莉子の背後から出席簿でポンと頭を叩く湊。
まさかの湊の行動にびくりと言葉も出ない莉子。
そんな積極的に朝から絡んでくるとは夢にも思っていなかった。
「さて、出欠とるぞ!!」
気合いを入れたように生徒の名前を一人づつ呼んで行く。
湊は下手に気を遣って莉子を避けるより、積極的に関わって自然体でいた方が周りからは気づかれにくいのではと考え直した。どの生徒にも同じように…。他の生徒はイジって莉子には全く関わらないのもそれはそれでおかしいだろう。
学校にいる時はちゃんと莉子を恋人ではなく、一人の生徒として受験が終わるまで見守らなければ…
朝学校へ向かいながら精一杯考えた結果だった。
ただその分、もっとプライベートで莉子と深く気持ちを交えて行かなければ今回みたいにちょっとしたことで誤解を招いたりしかねない。
せっかく両親の許可ももらっているのだから莉子とちゃんとコミュニケーションを取れるように、家に行く回数を増やそうと思っていた。
もちろんそれは悠太との事も気になっているからだ。
しっかりとけじめをつけて、でも今までよりも莉子との深く関わりを持とう……!
一夜を莉子と過ごして、それが湊の出した答えだった。
「三限目の古典の授業、金子先生今日休みなんで代わりに私がやります!誰か後で職員室にプリント取りに来てください!」
そうHRをしめる。
「先生、私取りに行きます!」
元気よく手を挙げ立候補したのは杏だった。
「じゃ、頼むよ。」
そう言って扉を開け廊下に出る。
静かに扉を閉め、考え込む。…ついさっきまでの莉子の家で過ごした濃厚な時間に上昇した温度が急に下がる訳もなく、窓の外をじっと見ている、なんだか大人びた莉子の横顔をチラリと見ては、制服の下に見える彼女の妖艶な昨夜の姿が、湊の頭を支配して身体が火照り始めてしまう。
学校では莉子を生徒として関わる事を心に決めたばかりなのに、もう恋人の莉子が湊の心に顔を出していた。
『変態か!俺は!!』
HRを終え廊下に出た湊は、頭の中の如何わしい考えをかき消すように、一人強く頭を振る。
二限目が終わり、はぁ…とだるそうな生徒たちの空気が流れる教室の中、一際元気な杏が莉子の手を引く。
「さぁ、莉子!プリント取りに行こう!!」
なんで杏がこんなにウキウキしているのかは分からないが、物凄い力で引摺るように莉子の腕を掴み職員室に向かう。
「ねぇ、最近どうなの??」
一応は聞いてはみるものの、あの保健室に行った日からどうなったのか、直接聞いたところでまともな返事など返ってこないと踏んだ杏は湊と莉子二人の絡む様子を見て判断しようと思った。
「失礼します!新井先生いらっしゃいますか??」
職員室に着き、湊を呼ぶ杏。
『おっ!』という顔をして近づいてきた湊は、杏の隣に隣に莉子がいることに気がつく。
顔を合わせると身動きが取れない二人。
どんな顔をしてこの場所で絡めばいいのか、変に意識して固まってしまう。
もどかしかった莉子と湊の仲に、何とか幸せになって欲しい…そんな純粋な親友の思い遣りだったが、二人が向き合って顔を見合わせた湯気の出そうな表情を見て、『あぁ、心配するまでもなかったか…。』と安心の様な呆れた様なそんな気持ちでいっぱいになった。
それほどに、二人の視線は絡み合うように繋がり、今にもキスでもしそうなただならぬ親密な空気を放っていた。
「ちょっと、ここは学校ですからね!!」
釘をさす様に二人の世界に割って入る杏。
「わ、分かってるわよ!別に、今は何にもなかったでしょ??」
莉子は慌てて視線をずらす。
湊の顔を見た瞬間、いつもの先生の顔の中に、昨夜莉子のベットの中で眺めていた男性の顔にパッと移り変わるのを、莉子は見逃さなかった。捕らわれた視線は湊に吸い込まれる様に外すことができなかったのだ。
一方湊は莉子を意識しまいと必死になるあまり、少し気をぬくと彼女の昨夜の姿が浮かび上がる。
今も生徒ではなく、昨夜の彼女の姿に見えていたのだ。
二人は同時にはぁ〜っとため息をつく。
「ため息まで一緒なんて、なんて仲のいいこと!」
先日の莉子の様子を思い出し、心配して損した!!と杏は皮肉たっぷりに微笑む。
湊も莉子も先が思いやられるなぁ……と、それぞれが恋愛にのめり込んでる様をいつまで隠し通せるのか気の抜けない毎日を覚悟するのだった。




