朝食
「おはよう。」
莉子が目を開けた先に湊の笑顔が見える。
「お…はようございます…。」
寝ぼけながら答える莉子を見て微笑む湊。
「先生…、さすが起きるの早いですね。」
寒い朝なのにもう何時間も前から起きているような顔に、尊敬の眼差しを向ける。
「そうだろう?」
余裕の笑顔で答えてはみるものの、実は莉子の安らかに眠る様子とは裏腹に、彼女が寝返りを打つたびに触れ合う身体の感触が湊の身体を火照らせ、一睡も出来ずに朝を迎えたのだ。
莉子は時計を見て、
「大変…!そろそろ学校に行く準備しないと……。先生向こう向いてて下さい!」
起き上がり乱れた髪を軽く整えて制服に着替え始める。
湊は寝不足でぼーっと空中に視線を泳がせていたが、ふっと視線を落とすと下着姿で制服に手をかけている莉子が目に入る。
「ちょっ、、!!」
湊は慌てて目を塞ぐ。
視線に気がつき、
「やだ!あっち向いててください!」
莉子は急いで制服をきる。
教師が絶対に見てはいけない女子生徒の制服に着替えるシーンを、こうも目の前で繰り広げられると、たとえ自分の彼女だったとしても変な背徳感に襲われる。
「まぁ…、昨日裸も見られちゃったし…私の下着なんて大した事ないか…。」
そう言いながらスカートのファスナーを上げる。
忘れようとしていた莉子の艶やかな身体をまた思い出し急に顔が紅潮してくる湊。
「そ、そんな無防備に男の前で着替えるんじゃない!!」
そう言いながら慌てて部屋の外に出て行く。
急にどうしたのかと、キョトンとした顔で湊を見送る莉子。
「簡単なものですけど…。」
テーブルには目玉焼きとウインナーが白いプレートの上に可愛らしく盛り付けられている。
二人の時間を惜しむように一緒に箸を突いては見つめ合う。
「なんか、学校で食べてるみたい。」
二人とも学校へ行く衣服を身に纏い、向き合っている。
背景が莉子の家なだけであって、現実では絶対に起こりえない教師と生徒が二人きりで向き合ってテーブルを囲む風景がとても新鮮で、特別感が満載だった。
莉子は嬉しくなり、
「あ〜あ、学校でもこんな風に二人でお昼食べられたらいいのになぁ!」
莉子の妄想は止まらず口元が緩む。
「そんなとこ誰かに見られたら、光の速さで噂が広がるだろうな…。」
ぶるっと震え上がる湊。
「そうですよね…。」
莉子も想像するだけで足がすくむ。
「気をつけような、お互い…色々。」
ここまで莉子との距離を縮めてしまって、自然と恋人同士の空気がでないか心配になってしまう。
明らかに莉子の家に来る前よりも親密度は増し、湊が彼女を愛する気持ちは増大している。
本当に気づかれないように意識していかないとすぐボロが出そうなくらいに、莉子にゾッコンであることは自覚してた。
彼女のちょっとした仕草ですぐに心臓が暴れ出す自分の情けなさにうんざりするくらいだ。
その点莉子はサバサバしていた。
想像を遥かに超えて湊との関係が進展した事に大満足だった。
今まで我慢しながら付き合っていたのだから、寂しかった気持ちも埋まっていき、これでまた暫く受験勉強に専念できる…くらいに思っていた。
「先生、本当に来てくれてありがとうございます!すっごく私、幸せだった。」
昨日の夜からの出来事を振り返り笑顔が綻ぶ。
「あれ?今夜は…いいのか?来なくても?」
湊は当然今夜も莉子と居られると思っていた。
「はい。今日は予備校の授業も遅くまであるし、帰り11時位になっちゃいそうだから。
そんな遅くまで先生お待たせするのも悪いし…私の相手をするのにも色々疲れたでしょう?」
そう、目の下にクマを作っている湊を心配する。
「11時なんて…!危ないじゃないか!俺迎えに行こうか?」
こんな可愛い女子高生が一人夜道を、いくら近いと言えども歩くなんて危なすぎる!湊は莉子の身を案じて提案する。
「大丈夫ですよ。佐々木先生が多分送ってくれると思うし…。11時の時は大体声かけてくれるから。」
莉子は湊をなだめるように言ったつもりだった。
「……悠太が…?莉子!ダメだダメだ!あいつに送らせるくらいなら、俺が迎えに行くから!!」
急に立ち上がりまくし立てるように話し出す。
「先生……?」
莉子は何事かと見つめる。
「莉子、あいつは危険だぞ!!近づくな!!」
莉子の肩を掴む。
「…そう言われても……授業中ずっと一緒だし…、別にそんな心配する事ないかと…。むしろ先生が迎えに来るところ誰かに見られちゃったら、そっちの方が心配ですよ。」
莉子の言う事がもっとも過ぎて言葉を失う湊。
「そ…、そうだな……。」
がっくりと肩を落とす湊。
「そんな事より、先生先に出ないと!職員会議あるんでしょう??」
莉子がスマホの時計を湊に見せる。
「うあ!!ヤバイ!!」
湊の頭はパンクしそうだった。
『とりあえず、帰りの事は後でちゃんと考えよう……!』
そう自分に言い聞かせて風のように莉子の家を出て行く。
莉子は微笑みながらマイペースで、湊を見送るのだった。




