山小屋の記憶
莉子はそのまま睡魔に襲われる。
嬉しさや恥ずかしさ、ヤキモチを妬いたり悠太と湊の関係に驚いたり…、色々な感情に振り回されて疲れ切っていた。
直接肌に触れる布団があまりにも優しくて心地よかった。
もう一度莉子の顔を見てから寝ようと二階の暗い廊下を歩いて行くと、莉子の部屋の隙間から明かりが漏れていた。
『よかった…まだ起きてるのか。』
そう思って部屋をノックする。
「莉子…?さっきは…色々ごめんな。寝る前に顔が見たくて…。入ってもいいか?」
そう静かに莉子に会いたい気持ちを素直に口にする。
当然だが寝ている莉子からの応答はなかった。
「莉子…?入るぞ?」
そっとドアを開け中の様子を伺う湊。
掛け布団が盛り上がっている所から、
「もう寝たのか……?」
そう言って近くに寄る。
顔を見ようとそっと掛け布団を持ち上げる。
ほんの少し莉子の穏やかな寝顔が見え、湊は暫く彼女の顔を眺めていた。
目の前に大好きで、大切な彼女がいるのに、何もできないもどかしさと、あまりの安らかな寝顔にキスくらいしてもいいかな…と心が揺れる。
顔を近づけると莉子の布団の中から、シャンプーの香りが彼女の体温で暖かくなった空気に乗って、湊の鼻や頰を擽り彼の心臓の音だけが静かな部屋を駆け抜ける。
「…莉子……。」
ゴクリとぎこちなく唾を呑み込み顔を近づける。
「…ん……先生……。」
消えるような声で呟き寝返りをうった莉子は白く細い腕を湊の首に巻きつける。
その時湊は、莉子が衣類を一切身に纏わず寝ている事に初めて気がついた。
目に飛び込んでくる膨よかで艶やかな胸に釘付けになる。
寝ぼけながらも湊を抱きしめようとする莉子の力に、骨抜きになってしまっている湊は簡単に負けてしまう。
乱れた呼吸が莉子の耳に伝わらないよう必死に息を止め堪えるが、彼女の顔が近づくに連れ教師である立場を忘れ、とうとうぷっくりとした唇に吸い寄せられるように重ねてしまう。
ダメだ…そう何度自分に言い聞かせても一度壊れてしまったブレーキを効かせるには手遅れだった。
莉子の耳や頰を確かめるかのように唇を這わす。
莉子は湊に愛されている夢を見ているかのように、幸せそうな微笑みを浮かべている。
『この先も……!!』
どんどん欲が出てくる湊だったが、眠っている彼女に流石に勝手なことはできないと、まだ辛うじて理性が働いていた。
もう一度莉子の唇にキスをした時だった。
突然パチリと莉子の目が開いて一瞬時が止まった。
固まった空気を破るかの様に、
「ご、ごめん!!つい……!!寝てる莉子に、最低だよな……、俺!」
自分のしてしまった事に恐れ慄いて後ろに後ずさりする湊。
「………。」
莉子はじっと湊を見つめる。
「本当に……、ごめん。莉子の顔見てたら……どうしても我慢できなかった。」
情けない自分にがっくりと肩を落とす。
そんな湊を見て、莉子はにっこりと微笑み、
「先生……。お願い…。私の事抱きしめてくれますか……?」
そう布団から起き上がり潤んだ瞳でお願いする。
「い、いや…、嬉しい話なんだけど…、その……服を着てくれないか?」
布団で隠してはいるものの目のやり場に困る湊。
「何もしないでいいから……、このまま私と一緒に朝までいて欲しいんです…。」
恥ずかしさを堪えてお願いする。
あの山小屋の時のように…お互いの体温を分け合って朝を迎えたい、莉子はただ純粋にそう思ったのである。
湊は考え込む。
『何もしないで……いられるだろうか…?』
そう思いながらも莉子に近く湊。
「先生も脱いでください…。ダメですか……?」
なんて恥ずかしい事を自分は言っているのだろう…?と思っているが、それ以上に今日この時を逃したら、またいつ湊に近づける日が来るか分からないと思うと必死に訴えた。
「……莉子……。」
こんなにも愛する人が自分を求めてくれているのに、断る理由などなかった。
『一緒にただ体温を共有するだけだ…!』
そう言い聞かせ莉子の前で服を脱ぐ。
着痩せをする湊の身体は想像以上に逞しく、莉子の視線を釘付けにする。
「恥ずかしいから…そんなに見るなよ…。」
少し赤くなりながら俯く湊が可愛いく思えた。




