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湊と悠太

「ごめん、状況が理解できない…。」

 悠太は目の前の光景に混乱してしまう。



「ここ、羽鳥さんちだよね?」

 念押す様にもう一度確認する悠太。



「あぁ、そうだ。」

 湊が口を開くと、

「何でお前が答えるんだよ!」

 と怒り混じりに返答を突っ返す。



「あの…本当に私の家です。佐々木先生は今日は…?」

 莉子はとりあえず状況を整理しようと自分の家に来た理由を聞いてみる。



「ペンケース忘れてたから…、帰り道だし届けに来たんだよ。」

 悠太のカバンの中から差し出されたペンケースは確かに莉子のものだった。



「おい、お前がなんでもってるんだよ!」

 学校でも見慣れたそれを湊が奪い返す。



「なんでも何も、彼女うちの塾に来てるんだよ、ほぼ毎日な。」

 顔も見たくない、そんな表情で目を逸らしながら湊の質問に答える。



「……莉子、本当なのか?」

 驚いた様に莉子を見る。



「はい本当です。通い始めたのは最近だけど…。佐々木先生には本当に熱心に教えて頂いて、次のテストが楽しみなくらい!」

 莉子は笑顔だ。



「そういう事だよ! ……ってか湊、お前はなんなんだ!?なんで羽鳥さんちにいるんだよ!香奈美はどうしたんだ!!」

 香奈美という名前を聞いて一瞬表情が曇る湊。




 悠太と湊は大学時代から同じテニスサークルの友達だった。

 香奈美もその中にいて、サークル内でも彼女の美しい風貌と柔らかな雰囲気に、男子の間では大人気の存在だった。

 もちろん悠太も香奈美の事をずっと心に留めていたが彼女の彼氏の座をいとも簡単に湊がゲットした時は失望の渦に吸い込まれて抜け出せない時期があったのだ。


 それ以来、気持ちを切り替えて悠太は二人を応援しようと距離を置きながら目の前で仲良くしている香奈美と湊を悔しい気持ちに蓋をしながら見守っていた。

 

昨年のクリスマス頃、たまたま香奈美と二人で話す機会があり、卒業したら湊と将来の話をしていると嬉しそうに話していた彼女の顔を思い出す。




「は?何言ってんのお前??香奈美の事手に入れといて、若い子が目の前に現れたらポイかよ!!

 あいつ…去年の冬に会った時にはお前と結婚考えてるって言ってたぞ!!」

 言い切ると湊の胸ぐらをぐっと掴む。



「ち、ちょっと!佐々木先生!!」

 莉子は悠太をとめながらも、香奈美と結婚という言葉を聞いて、少なからずショックだった。



「香奈美とは…春に別れたんだ。」

 悠太の顔を見れない湊。



「お前…!本当なのか?それ?!」

 今にも殴りかかりそうな形相の悠太は耳を疑った。



「羽鳥さんは……?なんなんだ?まさか付き合ってるんじゃないだろうな?!」

 震える拳を握り締める。



「お前の言う通りだ。香奈美と別れてから付き合ってる。」

 湊は悠太の香奈美への気持ちを何となく知っていて付き合っていた後ろめたさもあり、正直に答えようと心に決める。



「羽鳥さんは高校生だぞ?お前、確か高校の教師になったんだよな?」

 信じられないと言う目で湊を見る。



「まさか…お前の学校の生徒じゃないよな……。」

 その言葉に一瞬怯んだ湊だったが、


「あぁ、俺のクラスの生徒だ…。」

 正直に答える。




「先生!!」

 莉子はもう戻すことのできない湊の放った言葉に息が止まりそうになる。



「莉子は…俺にとって命よりも大切な存在だって気づいたんだ。

 お前がなんと言おうと…どう思おうと…俺の気持ちは変わることはないし、嘘もつきたくない。

 香奈美には申し訳ないって今でも思ってるよ…。でも、自分に嘘をついたままで付き合い続けることは、もっと彼女を傷つける事になるだろう??」




「………なんで……なんでお前はいつも俺から大切なのものを平気な顔をして奪って行くんだ!

 羽鳥さんの事だって……!」

 続きが口から零れ落ちそうだったがこの先を言ったところで自分が惨めになるだけだ…と噤む。




「こんな事、許される訳ないって…、お前分かってんだろうな……!」

 ギッと湊を睨みつける悠太。



「あぁ……。」

 湊は全てを覚悟した目で悠太を見る。



「分かったよ…。今日はこの辺にしといてやる。……けど、ただで済まされると思うな?犯罪と紙一重な事をやってるお前が幸せになんかなれるはずないんだ!」

 そう吐き捨てて二人に背を向ける悠太。



「莉子の事……あいつ好きだったのかな…。」

 湊はボソッと呟く。



「えっ?何ですか?」

 よく聞き取れずに聞き返す莉子。



「……いや…なんでもない…。」

 ぼーっと立ち尽くす湊を見て、莉子は不安になるのだった。

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