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初恋

「莉子、おはよう!」

 昨日のことはなかったかの様に斗真は笑顔で莉子の肩を叩く。


「あ、おはよう。」

 ぎこちなさが隠しきれない莉子は斗真の顔がまっすぐ見れない。


 斗真はそんな莉子の様子をすぐに気づき、

「おい、そんな気にすんな!いつも通りでいいんだよ。」

 優しい笑顔で莉子を見る。


「そだね。」

 斗真の方がよっぽど気まずいだろうに、相手を気遣える分自分より大人だな…と新たな一面に気がついた。



 私は今までずっと斗真の何を見てきたんだろう?

 斗真は私の事をずっと何年も見てきてくれていたのに…。




 莉子は突然の斗真の告白を思い出し朝からぼーっと教室窓の外を見つめる。

 なんだか本を読む気分にもなれない。



 朝のHRで微動だにしにない莉子に、

「おい、羽鳥?」

 遠くから呼ぶ担任の声にも気がつかない。

 生徒たちに静かにするようジェスチャーしながら、ゆっくりと忍び足で後ろから近付いてくる湊。




「羽鳥さん、おはようございます!」

 背後から耳元で囁く様にいたずらっぽく声をかける湊の声に、


「ひやぁぁああ!!」

 と、とんでもない声を上げて立ち上がる莉子。


 はっと我にかえって周りを見れば、なぜか大爆笑の渦の中にいた。


「羽鳥さん、話はちゃんと聞きましょう!」

 出席簿でポンと頭を軽く叩くと、クスクス笑いながら戻っていく湊。




『はぁ…、まだ心臓がドキドキしてる…。』

 バクバク言う心臓に『シッ!』と心の中で呟き深呼吸をする。


 一瞬フワッと香った湊のいい匂いが莉子の心をいっぱいにする。

 さっきまで斗真の事で悩んでいたのに、一瞬にして湊で頭がいっぱいになる莉子。



 その日莉子は授業に全く集中できず上の空だったのは言うまでもない。



 放課後誰もいないだろう図書室に行って集中出来そうな本を探しにいく。

 ほんの少しでも何かを考える隙間が頭の中にあると、斗真と湊のことが思い浮かび深みにはまってしまうのだ。



「あぁ、こんなんじゃ私ダメになっちゃう…!」

 机に突っ伏し今日一日の心の疲れが声となって外に出てしまう。



「何がダメになっちゃうの?」

 莉子の心を乱しまくっている湊の声が聞こえてくる。



『はぁ、また幻聴が聞こえるわ…』

 重症だわ…と自分が情けなくなる。


 ガタンと隣の席の椅子が動く。


「……?」

 ふと右を見ると湊が当たり前のように椅子に座る。



「せんせ…!」

 逃げるように座っていた椅子から立ち上がる莉子。



「おいおい、逃げんなよ?今日はどうした?」

 優しく微笑む湊。


「せ、先生には関係のない話ですよ!」

 関係ありありだったが、とてもそんなこと言えるはずもない。



「なんだよ、冷たいなぁ。せっかく悩める生徒の相談に乗ろうと思ったのに。」

 少し寂しそうに呟く。


 そんな湊の様子を見て、新任の先生のやる気の腰を折るような自分の態度を少し反省し、隣に座りなおす。


「あの…、ごめんなさい。」

 言おうかどうしようか迷いながらも、誰にも言えない辛さも正直なところあったので思い切ってざっくりと昨日のことを相談してみようかと思いなおす。



「先生、私幼馴染がいて…。昨日告白されたんです。」

 湊は想像していた悩みとは違っていた事に戸惑いながら耳を傾ける。


「私、男性として彼のこと見たこと一度も無くて…。嫌いじゃないんですけど、いきなり男として見てみるねって言っても、なかなか気持ちが付いて行かなくて…。」

 うんと頷く湊。


「そう言うの私疎いんです。本とか好きなものはたくさんあるんですけど、恋愛とか…今まであんまり興味も無くて。18歳にもなるのに、おかしいですよね、私。」

 恥ずかしそうに俯く莉子。



「……。恋愛なんて、無理してするもんじゃないだろ?」

 うーんと考えながら慎重に言葉を選ぶ湊。


「誰かを好きになるって、理屈なんかじゃ無くて…もっとこう…なんていうか…ビビっとくるもんだろ?」

 言いたいことをなかなかうまく表現できない湊を見て莉子はなんだか可笑しくてふふふと笑い出してしまう。


「おい!真剣に話してんのに笑うなよ!」

 湊の顔を見上げると、真っ赤になっている。


 莉子はドキドキと自分の鼓動が高鳴っていく事に気付かないふりをする。


「ご、ごめんなさい。なんか、先生可愛かったから。」

 と言い終わってとんでもないワードが口から出てしまった事に驚き口を塞ぐ莉子。


「……全く、先生をからかうんじゃありません!」

 莉子から視線を外す湊。



 莉子はドキドキが止まらない。



「とにかく!無理やり好きになるもんじゃなくて、気がついたら好きになってるってのが恋愛だろ?」

 莉子を見つめる。


「今のままでいいんだよ。自分の気持ちに正直に、羽鳥さんの好きな人を見つけなさい。」

 ポンと頭に手を置き立ち上がる。



「ありがと…、先生。」

『じゃあな』と手を振り図書室から出ていく湊。



『どうしよう…。私、やっぱり先生のことが好きだ。』


 短いやり取りの中で自分の気持ちに気づいてしまった莉子。


 窓から見える桜の花は、莉子の心を表すかの様な柔らかなピンク色に染まり、彼女を初恋へと導いていく様にフワフワと風に舞う。


 莉子は花びらを見つめながら、湊への思いを確信するのだった。




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