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幸せの近く

 家に帰り着くと莉子の父と母が慌ただしく出かける準備をしていた。



「ねぇ、お母さん。今日先生うちに来るんだけど、どっか行くの?」

 莉子は心配そうに二人の様子を伺う。



「えぇ?今日なの?今日はおばあちゃんの具合がかなり悪いらしくて二、三日田舎に帰るのよ。

 莉子は学校があるから、行くのはいざって時でいいけど、先生来ても今日は何にもしてあげられないわよ?」

 莉子は『よりによってなんで今日なの…?』とがっくりと肩を落とす。



「莉子、湊くんに来てもらいなさい。女の子一人で家で留守番させるより安心だろう。もう、彼は家族のようなもんだしな。」

 湊に絶対的な信頼を寄せる父の言葉に莉子は耳を疑う。



「えっ?泊まるってこと?」

 人が変わったような寛容な父に莉子は信じられない眼差しを向ける。



「あなた…いきなりそんな…!」

 莉子の母が戸惑ってしまうくらいだった。



「別にいいだろう?私から湊くんに連絡しておくから、莉子、連絡先教えなさい。」

 淡々と出かける準備を進める手をやめない父。



「莉子…大丈夫なの?」

 母は莉子の気持ちを心配する。



「私はずっと話も出来てなかったし、二人の時間が持てることは嬉しいけど…。」

 莉子はこんな展開になると全く予想していなかったので正直な気持ちが自分でもよく分からなくなっていた。


「先生は私の気持ちをいつも一番に考えてくれるから、泊まるにしても帰るにしても…大丈夫だと思う。」

 少し考えながら結論を出す。



「何かあったらすぐに連絡しなさいね。」

 莉子の母は優しく微笑む。



「うん!」

 そう返事をして二人を送り出した。



『さあ、私は塾に行ってくるか!』

 やるべきことはしっかりとこなしておこうと、今日予定している二時間の講義を湊が仕事を終えて家に来るまでに受けてこようと家を出た。




 莉子は俄然やる気が出ていた。

 目の前に待ちに待った嬉しいことが待ち構えている思うと、より集中力が増していく。



「羽鳥さん、何かいいことでもあったの?」

 ニコニコしたり、急に集中してものすごい勢いで問題を解き出したり、ずっと莉子の様子を見ていた悠太は気になって仕方がない。



「…え?なんで分かるんですか?」

 そう言いながら、解いていた問題の答え合せを求める莉子。



「顔に書いてあるよ!」

 解答用紙に丸をつけつつ、笑いながら答える悠太。



「私、今日で一生分の幸せ使い切っちゃうかもしれなくて怖いんです。」

 溢れんばかりの幸せオーラが身体中から出ている莉子に悠太は『今日?』と不審がる。


「こんな夜に帰ってから何かあるの?」

 気になって仕方がない。



「それは内緒ですよ。」

 そう言いながら悠太に返された全問正解の解答用紙を見てまた笑顔が溢れる。



「………。」

 悠太はそんな幸せそうな莉子を黙って見ていた。






 授業が終わり、

「送って行くよ。」

 と再び悠太が近づいてくる。



 莉子は、

「ありがとうございます。でも、今日は大丈夫です。寄りたいところもあるし。」

 丁寧に断る。



「こんな時間に?どこに寄るの?」

 ついつい突っ込んで聞いてしまう自分に少し嫌気がさしてくる悠太。



「スーパーです。今日両親いないので。」

 そう告げると、『じゃあ』と軽く会釈して小走りに立ち去る莉子。



「両親がいない……?」

 様々な想像を膨らます悠太だった。



 ふと机の上を見ると、莉子のグリーンのペンケースが置き忘れてあった。

 悠太は手に取り、別に渡すのは明日でもいいものではあったが…莉子の家に行く口実になると握りしめた。





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