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募る想い

「はぁ……今頃どうしてるのかな…。」

 湊を想って、今夜は布団に入ってもなかなか眠れない。



 スマホを手にとっては置いてを繰り返し、結局連絡はできずにいた。



「逢いたいな…。」

 毛布をギュッと抱きしめる。



『先生は平気なのかな…?私と逢えなくても…。』

 そう思ったら自然と涙が枕に伝い落ちていく。





 逢いたさが限界まで来ているのに素直になれない。

 それは莉子だけではなく湊も同じだった。




 湊は知らない男と二人で歩いているところを目撃してからというもの、莉子が離れていってしまうのではとずっと怖かった。



 連絡が取れない時間がこんなにも辛いものなら、我慢するなんて言わなければよかった…そう何度も後悔した。



『明日…もう一度莉子に逢いに行こうか…。』

 湊は決心する。

 このままでは自分の心が壊れてしまいそうだったのだ…。





 翌朝莉子は、毎日見ている湊の顔が見たくて震えていた。

 いつもは逢いたい欲が溢れ出さないように、出来るだけ見ないようにと視線を逸らしていたし、関わりを少なくしようとなるべく近づかないようにしていた。


 でも、今日はちゃんと彼の表情や仕草を頭の中に焼き付けて、少しでも心を満たせれば…と思っていた。



 HRで教室に入ってきた彼を恐る恐る見る莉子。

 湊はすぐに莉子の視線を感じ彼女を見遣る。


 目が合い、なぜか心臓の高鳴りがおさまらない莉子。

 急いで目を逸らしてしまう。



『やだ…、目が合っちゃった…。』

 心が逢いたさに悲鳴をあげているようだった。



 出欠を取ってる彼の声を聴きながら、莉子は感情が乱れて涙が溢れ落ちる。



『私どうしちゃったの…?』

 理屈では説明がつかない涙を懸命に拭うが、彼女の異変は湊の目にすぐに入る。



「羽鳥さん?どうした?」

 近寄ってくる湊。



「……あの…、なんでもないです。ちょっと気分が悪くて…。」

 莉子は必死に取り繕う。



「ちょっとじゃないだろう…?」

 莉子の顔を覗き込むと頰を赤く染めて涙を溢れんばかりに瞳に溜めている。



「……莉子…?」


 思わず名前が出てしまうと、莉子の前の席の生徒が『えっ?』と振り向く。


「羽鳥…羽鳥莉子さんだったけ?」

 と意味不明に名前を確認する湊。



 杏と斗真がニヤッと目を合わす。



「先生、HRはもういいですから、莉子を保健室連れてってあげてください!」

 斗真が大声で促す。


 生徒たちは莉子と斗真はいい仲だと思っている人がほとんどなので、その斗真が言うのだから当然二人の関係を疑うものはいなかった。



「そ、そうだな。じゃ、あとは一限目まで自習してて。」

 湊は斗真を見て軽く頭を下げる。



「大丈夫か?」

 そう莉子の腕を掴んで立ち上がらせ肩を抱く。



「いいなぁ〜羽鳥さん!」

 女子たちの羨む視線を背に受けながら湊に支えられてフラフラと教室を出て行く。



 廊下にでて誰もいない事を確認すると、

「おい、どうした?大丈夫か?」

 心配そうに覗き込む。


「ごめんなさい、先生…。」

 涙が止まらない莉子。



「とにかく保健室に行こう。」

 長い廊下を歩き出す。



 保健室に入ると粕谷先生が、

「あら、二人揃って…。」

 そう笑顔で迎える。



「新井先生、私職員室に用事があるんで、しばらくここ見といてもらえますか?

 今誰もいないし、羽鳥さんも担任の先生がいれば安心でしょ?」

 ふふふと今日もまた意味深な態度で保健室を出て行く。


「……分かりました。」

 不審がりながらもありがたく湊は素直に粕谷先生の言うとおりにする。




 バタンと扉が閉まり粕谷先生が保健室を出ていったのを確認すると、莉子をベットにそっと寝かせて布団をかける。


「具合…悪いのか?」

 湊が優しく莉子の頭を撫でる。



「先生……ずっと二人になりたかった……。」

 側に座っている湊の胸に起き上がり顔を埋める莉子。



「……莉子…。」

 湊は莉子も同じ気持ちでいてくれた事が本当に嬉しかった。



「…先生……。」

 泣きじゃくる莉子が落ち着くまで、優しく背中を摩り続ける湊。



「……なぁ、今日、莉子に逢いに行ってもいいか?」

 湊は思い切って莉子に聞いてみる。



 莉子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を必死に拭いながら、

「いいんですか…?ほんとうに……?」

 そう瞳の色が明るく変わったかのような莉子の表情に、

「俺、毎日莉子の所に行こうかどうしようか迷ってた。こんなに離れる事が莉子を苦しめてるなら、もっと早く逢いに行けばよかったよ。本当にごめんな…。」

 愛おしそうに莉子の髪を撫でる。


「ずっと我慢してたんです。先生の方見ないようにして…、近くにもいかないようにして…。でも一度先生の事考え出したら止まらなくなっちゃって…。何にも手につかないし、眠れない…。だから、今…私ほんとうに幸せです。」

 莉子のその言葉に、湊は今までの莉子の態度の理由が全て理解できた。



「あぁ、莉子…。ごめんな…。俺……。」

 莉子の事を全然分かっていなかった…と自分を責めた。




「先生!一限目大丈夫??時間!!」

 莉子は時計を見て慌てて湊に伝える。



「うわ!まずい…遅刻だ!!じゃ、また連絡するな!!」

 そう言って風のよう保健室を出て行く。



 莉子は全身で湊の温もりをもらい、身体の隅々まで幸せが広がって行くのだった。




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