表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/70

帰り道

「羽鳥さんはほんと呑みこみ早いね!」

 悠太は感心しながら帰り際、莉子に声をかける。



 塾に通いだしてから二週間が経つ。

 周りの生徒たちは血眼になりながら日夜参考書と向き合い続ける中、悠太は普段と変わらない様子でメキメキと成績を上げていく莉子に驚きながら、通い始めた時期と全くわからない、ふわりとした雰囲気を維持している内面の強さと外見の柔らかさのギャップに彼女を見る目が変わってきていた。



「羽鳥さん、家でどの位勉強してるの?」

 悠太は莉子に興味津々だ。



「2時間くらいですよ。あとは読書してます。」

 ふふと笑いながら答える莉子。



「もっとやればかなり上の大学狙えるのになぁ…。」

 勿体なさそうな表情で悠太は腕を組む。



「いいんです、そんなに将来に野望はないので。」

 滅相も無いと遠慮がちに手を横に振る。



「……そうなんだ…。担任の先生とか、ほかの学校勧めて来ないの?」

『担任の先生』と言う言葉に湊の顔が浮かぶ。

 いつも考えないようにと必死に気持ちに蓋をしている莉子は、一気に湊との幸せな思い出が吹き出してきて頰を赤らめる。



「……羽鳥さん……?」

 あまり雰囲気を変えない莉子が、急に女性の顔になった事に驚きそんな色めいている表情に釘付けになってしまう悠太。



「あ…、いえ、先生は私の歩幅に合わせてくれているので、それ以上を狙えとかは特に仰る事はないですよ。」

 ほんの少し心の中を覗かれてしまっただろうか…?と不安になりながらも必死に誤魔化す莉子。



「……そうなんだ。」

 腑に落ちない部分が悠太の顔をほんの少し曇らせたが、莉子のほんわかとした空気がまぁいいかと思わせる。



「じゃあ、私帰るので!」

 莉子は背を向け歩き出す。



「あ、ちょっと待って!羽鳥さんちすぐそこでしょ?うちもすぐそこなんで途中まで送ってくよ。」

 悠太はもう少し彼女と話がしたいと思い後をついていく。




 街灯がポツポツとしかない暗い夜道を二人は並んで歩く。




「やっぱり夜は女の子一人だと心配だよな。」

 莉子の家はは塾から徒歩で5分ほどの距離にあったので、わざわざ親が迎えに来ることはなかった。



「羽鳥さんは本がそんなに好きなんだ?」

 悠太は休憩時間も本を読んでいる彼女を思い出す。



「はい。色んな世界が楽しめるし…私は最高だと思ってるんですけど、友達とかはあんまり共感してくれる人は少ないですね。」

 残念そうに莉子は微笑む。



「でものめりこめる物があるって、素晴らしい事だよな。俺も数学の事考えだすと、時間忘れる。」

 恥ずかしそうに微笑む。



「人に合わせてワイワイ楽しむよりも、どっちかっていうと自分の時間を楽しみたいタイプで…。佐々木先生もなんとなく、私と同じタイプじゃないですか?」

 クスクス笑いながら楽しそうに莉子は話す。



「確かにその通りかもな?」

 莉子に親しみの眼差しを向ける悠太。



 もうすぐ本格的な冬が来ることを匂わせるような北風が二人を襲う。


「……うぅ、寒い!」

 震える莉子に悠太がコートを莉子の肩にかけようとするが、



「あ、大丈夫です!うち、本当にすぐそこなんで!ありがとうございます。」

 丁寧に断る莉子。

 湊との思い出に何か上塗りをされてしまいそうで断った。



 莉子の家の前まで来て、

「さようなら。」

 と二人は別れる。




 そんな二人をたまたま久しぶりに莉子に逢いたいと彼女の家の近くまで来ていた湊は目の当たりにしてしまった。



「……誰だ?あいつ……。」

 取り乱す感情がコントロールできそうもない湊は、そのまま莉子に背を向ける。



「一体……!」

 二人が連絡を取っていない間に一体何が起こっているのか……!

 湊は莉子は絶対的に自分の物だと思い込んで安心しきっていた自分を恨んだ。



 早足で歩きながら、良からぬ想像が頭の中を駆け巡る。



「……莉子……!」

 本当は今すぐあって莉子の気持ちを確かめたかった。

『なんでもないよ。』

 その言葉を聞いて温かい莉子を抱きしめたい……!



 しかし湊は莉子と連絡を絶って一ヶ月以上経つ今、何を根拠に絶対彼女の気持ちは動いていないと言えるのか…自信がなかった。



 北風が冷たく湊の心を引き裂きながら吹き抜けていく。


『今は……こんな俺の嫉妬をさらけ出す時期じゃないんだ……!』

 莉子の将来を本当に考えている湊はぐっと堪え、自分を戒めるように言い聞かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ