講師
校門から校舎までの通路に植えてあるイチョウの木が美しく紅葉し、通路一面黄金一色で埋め尽くす11月。
イチョウ並木を歩きながら莉子と杏はいよいよ受験勉強に本腰を入れなきゃね…と重い空気を背負って歩く。
「ねぇ、杏。今更なんだけど予備校通おうかと思ってるんだけど、杏はどこか通ってるの?」
莉子は完全に出遅れている事を自覚しながら杏に意見を求める。
「私は去年から通ってるよ。莉子は頭いいし、今の成績でも志望校余裕なんでしょ?無理しなくてもいいんじゃない?」
杏は莉子の成績を羨む。
「まぁ、成績は一応足りてるんだけどさ…、なんか家で勉強してると余計なこと考えちゃって最近集中できなくて…。」
頰を赤らめる莉子を見ながら杏は、
「ふーん、誰かさんの事で頭いっぱいになっちゃうのかなぁ??」
全く呑気なもんだわと呆れながら嫌味を言う。
「……うん。」
そこは素直に答えるのね?と莉子を可愛く思いながら、
「じゃあ、暇つぶしに予備校通いなさいよ!結構他校の人とも交流出来るし寂しい気持ちも紛れるかもよ?」
予備校を恋人と会えない寂しさを紛らわすために通う受験生なんているのかしらとため息をつく杏。
「よし!!今日親に相談してみるわ!」
そう意気込んで家に帰っていく。
当然、莉子の勉強したいと言う気持ちを両親は否定する事もなく、近くの予備校に早速見学に行ってみる事にした。
まだ今年出来立てで知名度まだないが、近所では親切丁寧に教えてくれると好評の予備校だった。
一通り教室を案内してもらい、
「ここは個人的にもちゃんと指導するので安心して通ってください!」
学校とは違い若い講師の集まっているこの塾ではさわやかな空気が流れている。
笑顔で莉子に話すのは講師である佐々木悠太だ。
湊と歳は同じくらいに見えるが、いかにも女子に人気のありそうな、サラサラの茶髪にドラマにでも出て来そうな俳優のような端整な顔立ちをしていた。
真面目そうな雰囲気を醸し出しながらもユーモアを交えたセンスのある喋りが学生たちに受け、誰とでもフランクに付き合えるタイプの人間だ。
湊も悠太もイケメンではあったが、放っているオーラが真逆だった。
「莉子、ここでいいんじゃない?家から近いし、帰り遅くなっても安心でしょ?」
莉子の母は気に入ったようだった。
「そうだね。じゃ、ここにするよ。」
特にこだわりもない莉子は即決する。
「では、今日は見学ってことで、数学の授業受けてきますか?担当は私なんで。」
莉子は特に予定もなかったし、はいと答えて莉子の母と別れ教室に入っていく。
少人数制なので莉子のクラスは五人ほどで授業を聞いていた。
とてもわかりやすい説明で莉子は苦手だった数学にほんの少し興味も持てるようになる。
みんなで意見を出し合いながら難しい問題を解いていくことも新鮮な経験だった。
あっという間に1時間が過ぎ、充実した気持ちで帰り仕度をする。
「羽鳥さん、どうでした?」
悠太が莉子に近寄り声をかける。
「色々新鮮で…楽しかったです。」
にっこりと笑う莉子を見て悠太もつられて笑顔になる。
「じゃ、次回また待ってますね。自習室はいつでも自由に使ってください。」
莉子はいつも図書館で勉強していたが、本の誘惑に負けて半分の時間はついつい読書に耽ってしまう。
自習室ならそんな事もないか、と受験まではこちらを利用しようかと思った。
「きっともう明日から自習室に通ってると思います。」
悠太に感謝の気持ちを込めて頑張る意思を伝えると、
「応援してるよ!一緒に受験乗り切ろうな!」
そっと差し出された悠太の手を、驚きながらも、まあ挨拶か…と恐る恐る握り返す。
「じゃ!」
ポンと背中を叩くと莉子に背を向け歩き出す。
『なんだか不思議な人だったなぁ…』
と悠太と握手をした自分の手を見つめるのだった。




