新しい朝
病院の窓から差し込みむ朝日が眩しくて、莉子は眠い目を擦りながらゆっくりと瞼を開く。
ふと横に視線を送れば湊がまだスヤスヤと寝息をたてながら莉子のベットにもたれかかっていた。
キラキラとした朝日がふわふわな湊の髪に反射して、触れてみたいと手を布団から出そうとすると、まだ彼の手に自分の手がしっかりと握られていることに気がつく。
莉子は触れる事を諦め、じっと湊の寝顔を見つめながら手を握り返す。
毎朝こんな風に目覚める事ができたらどんなに幸せだろうなぁ…とまた欲をかいてしまう自分を戒めるように思い描く幸せの図をかき消すのだった。
時計にふと目をやると学校に行くならそろそろ準備をしないといけない時間になっていた。
「先生…、起きて!」
莉子はそっと湊の肩を揺する。
「……ん…?」
寝ぼけながら顔を上げると、あぁ、ここは病室だったと思い出すような顔で莉子に、
「…おはよう。」
と寝起きのふにゃりとした笑顔を向ける。
「……湊…。」
思わず名前を口に出す莉子。
「莉子……。」
嬉しそうに莉子をベットの上で抱きしめる。
「一緒に住んだら…こんな風に名前を呼んで毎朝先生の名前呼べるのかなって…。」
湊の背中に回した手をキュッと強める。
「毎日、毎日な。」
噛みしめるよに莉子を抱きしめ返す。
ガタン!と音がして二人は驚き入り口に目をやると、斗真と杏が顔を真っ赤にしながら立ち尽くしていた。
「わっ!!いつからいたんだ!!」
湊が慌てて立ち上がり寝起きでシワシワになった身なりを取り繕う。
「…あの…先生起きて!のところから…。」
杏が衝撃のあまり床に落としてしまったカバンを拾い上げながらテヘヘと頭を掻く。
「やだ…もう!!覗くなんて趣味悪い!!」
莉子も顔を赤くして恥ずかしさのあまり俯く。
「だって…ね、斗真くん…。声かけようと思ったけど、二人の世界ーって感じでかける隙間なかったもんね!」
必死で言い訳を見つけながら斗真に同意を求める杏。
「お、おう!」
斗真はにはまだ目の前で起こっていた事の刺激が強すぎて全身が固まっているようだった。
「いやさ、昨日莉子の携帯に何回も連絡したんだけど電源切れててでなかったからさー。
心配になって家に電話したら、大変なことになって病院にいるって聞いて…急いで斗真くんにも連絡して、学校行く前に病院寄ろうって話したんだけど……お邪魔みたいだったわね。」
斗真と顔を合わせながら笑う杏。
「そっか…。スマホ充電切れてるわ…。」
莉子は真っ暗な画面を見て納得する。
「莉子は、学校行けそうか?」
湊は莉子の顔を覗き込む。
「うん、大丈夫。」
笑顔で答える莉子に安心する湊、
「ちょうどよかった。二人とも莉子も一緒に学校連れてってやってくれないか?
俺は退院の手続きとかして後から行くから。俺と二人で登校して変な目で見られても困るしな。」
湊は杏と斗真に近寄り肩を叩く。
「もちろん!莉子はちゃんと学校に送り届けるから安心して下さい!」
斗真は湊のお返しと言わんばかりに背中をポンと叩く。
「莉子ー。ほんと大事に至らなくてよかったねー!なんでまた田中さんの事襲おうとしたのかな…?いや、その前に、なんで田中さんがあの時間に莉子たちの後ろにいたのか……謎ね!」
杏は興奮しながら独り言のように妄想している。
優の件は三人とも詳しく聞かされていなかったが、莉子はなんとなく湊が優の送り迎えをしていた理由が分かった気がしていた。
「杏。私もその事情はよく知らないけど…、まぁ私は何でもなかったし、悪い奴も捕まったし、もういいじゃないそれで!この話は、ここで終わりにしよう?」
優の気持ちを気遣い、もう昨日までの事はいいやと心に整理をつける。
「…まぁ…莉子が納得してるんなら…もういっか!!」
杏は莉子の気持ちを察したのか、そのあともう優の話はしなくなった。
何事もなかったかのようにクラスの教室に入る三人。
昨日の出来事を知る者は優を含めた四人以外誰もいない。
まだ文化祭の話題が尽きない温度が高めな教室の中、莉子を見てホッとしたかのように立ち尽くしている優は一人声をかけられず視線で見送る。
『最初から…敵う相手じゃなかったな…。』
そう思って寂しそうに席に着いた。




