幼馴染の告白
「おい、莉子。さっき新井先生と何話してたんだよ?」
莉子と湊が二人きりで何をしていたのか気になって仕方のない斗真はやっぱり聞かずにはいられなかった。
「何が?本の話しかしてないよ?」
莉子はあの時間に触れて欲しくなくて素っ気なく答える。
「本…?そうか、アイツ担当国語だったな…。」
少し納得したように頷く斗真を見て首を傾げる莉子。
「どうしたのよ斗真?何かあったの?」
なんだか今日はいつもと違う斗真に調子が狂ってしまう。
結局図書館は時間がギリギリで新しい本は借りられず、斗真はただついてきただけだった。
『返すだけになっちゃうから、斗真は先に帰りなよ。』
と何度も念を押したが、『いいからいいから』と結局莉子の後ろをずっとついて来ていた。
莉子は立ち止まり、
「本当に、今日はどうしたのよ?悩みでもあるの?」
幼馴染なだけあって、やっぱり腐れ縁でもずっと一緒にいた斗真を放っては置けない。
「莉子…。」
喉元まで出かかっている『好きだ』という言葉がどうしても吐き出せない。
「ねぇ、顔赤いよ?熱でもあるんじゃない?」
そっと斗真のおでこに手を当てる莉子。
公園の街灯に照らされた桜の花びらたちが、春風に乗って二人の周りを踊る様に舞う。
最近斗真の表情をまっすぐ見ることもなかったが、久しぶりに近くで見た彼の顔は、高校に入学した頃よりもはるかに大人びていた。
女子に大人気なのもわかるな…と斗真の綺麗な顔立ちに見とれてしまう自分がいる。
「莉子はさ、好きなやついないの?」
突然の質問に莉子は固まる。
「い、いるわけないじゃんっ!」
一瞬でも湊の顔が思い浮かんでしまった気持ちをすぐにかき消した。
「…そっか。」
少し安心した様な柔らかい斗真の表情に莉子は見とれてしまう。
『やだ、私。今日は本当にどうしたんだろう??』
いつもなら考えられない、女の子の様な感情が自分の中に芽生えていることに戸惑いを隠せない。
「莉子。俺、莉子の事が好きだ。」
三歳位の頃から長い間一緒にいて初めて見た斗真の瞳の奥は、あまりに優しく莉子を包み込んだ。
莉子は斗真は幼馴染としか見た事がなかった。
今突然告白されても、全く気持ちが追いつかない。
「………。」
何も言葉が出てこない。
「…あ。…突然ごめんな、こんな事言って。」
俯く斗真。
「莉子が俺の事、そういう風に見てくれてない事位分かってたんだ。でも、俺はずっと莉子の事が好きで…、もう高3だし、そろそろちゃんと伝えたかった。戸惑わせてごめん。」
いつもおちゃらけている斗真が声を詰まらせながら懸命に気持ちを伝えてくれている。
「……斗真…。私、もうすぐ18歳になるっていうのに、本気で誰かのことを好きになった事一度もなくて…。今こうして斗真が気持ちを伝えてくれてるのに、私全然自分の気持ちが分からないの。
斗真の事嫌いじゃないし、むしろ一緒にいて楽しいし、気があうし…。
でも、男の人っていう目で今まで見た事がなかったから…。」
『ごめんね』と続きそうな莉子の言葉を遮る様に、
「莉子、俺のこと、少しでいいから男としてこれから見てくれないか?付き合うとかそんなんじゃなくって、莉子の恋愛対象に自分がなってるかだけでも知りたいんだ。……ダメかな?」
斗真は一体何年私の事を想っていてくれたんだろう…?
そう思ったらこのまま斗真の気持ちを突き返すには余りにも失礼だと思った。
「分かった。斗真の事、これから幼馴染としてみるのやめてみる。今すぐは答え出せないけど…、そうやって私の事をずっと想ってくれてた気持ち、大切にしたいって思うから。」
莉子は斗真の辛そうな顔が笑顔に変わる様に祈りながら、にっこりと笑う。
「莉子…。ありがとう。」
そっと手を出す斗真。
気持ちを受け取る様に莉子は女性らしい白い手を差し出す。
斗真の大きな掌に包まれる自分の指を見つめながら、莉子は斗真の事を男として好きになれるかどうか不安な気持ちと、斗真の手から伝わる温かい気持ちが複雑に混ざり合い戸惑うのであった…。