文化祭
青く澄み渡った雲ひとつない10月の秋空に、花火の大きな音が響き渡る。
「高校最後の文化祭だ!今日は進路のことは少し忘れて十分楽しむように!」
湊の掛け声とともに、クラス中が一致団結する。
莉子のクラスはメイド喫茶を出す準備を前々からしてきた。
女子はメイド服を着て、男子はボーイの衣装。
いつもと違う生徒達の雰囲気に異様な盛り上がりを見せる。
予想以上に大盛況で、廊下に行列が出来るくらいだった。
「莉子、お釣りなくなっちゃたから先生のところ行って聞いてきて!」
杏の指示で莉子は職員室に向かう。
「失礼します。新井先生いらっしゃいますか?」
近くにいた別の男性教員に声をかける。
「はいはい。新井先生!!呼ばれてますよ!」
そう言いながら莉子の姿を見て、
「おお!可愛いカッコしてるじゃない。似合ってるよ!」
そうニコニコと褒めてくれる。
その様子を見て取るもの取らず急いで駆けつける湊。
「そんなに慌てないでも…。」
男性教諭は『そんなに急いでどうした?』とイスに座ったまま険しい顔の湊を見上げる。
「すみません、ありがとうございます。」
そう言って莉子を職員室から押し出すように廊下に出る。
「先生?あの、お釣りがなくなったんで…。」
不思議そうに見る莉子。
「あ、あぁ。そうか。」
気まずそうに頭をくしゃくしゃする。
「何かあったんですか?」
様子のおかしい湊に莉子は声をかける。
「いや……、羽鳥さんのそのカッコ…、可愛いんだけどすごいほかのやつに見られてるから…。」
複雑な心境で周りをキョロキョロ見渡す。
「先生、うちのクラスの女子はみんなおんなじ格好ですよ!心配ないです。」
ふふふと笑いをこらえて湊を可愛く思う。
「……あぁ。」
納得いかない顔をしている湊だったがお人形のような莉子を、誰の目にも触れさせたくないと気持ちだけが走ってしまう。
「先生、お釣り!!」
持ってきたお札を前に出す。
「あ、あぁ、そうだったな。」
両替のお金を受け取って小銭を渡す。
悶々と莉子を心配する湊は早く売り切れてお店が終わらないか…と思ってしまう。
短いスカートから見える白い足はどんな男だって釘付けになるだろう!そう思ってつい目線が莉子の足に向いてしまう。
「ちょっと、センセ!!」
莉子は湊の視線に気付きスカートを抑える。
「い、いや、そういうつもりじゃ…!ただ、他のヤツに見られたくないなって……。」
だんだん声が小さくなる湊。
莉子は周りに人がいないか伺い、
「ねぇ、先生…」
コソコソ話をするように耳を借りるフリをして頰にキスをする。
「……ちょっ!!」
湊は驚き莉子の顔を見る。
頰を赤く染めてハニカミながら微笑んでいる彼女の顔を見て今すぐ抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
「莉子!!ちょっと遅いよ!!」
痺れを切らして杏が駆け寄って来た。
「お釣りなくて、お客さんまたしてるから急いで!!」
強引に手を引っ張り教室に連れ戻される莉子。
湊はそんな莉子の姿にぼーっと見とれるように立ち尽くしていた。
そんな時、突然、
「新井先生!!」
驚かすように肩を叩く。
湊は驚いて「わっ!」っと一瞬叫んで振り返る。
「粕谷先生か…。もう驚かさないでくださいよ…。」
ふふふと笑いながら粕谷先生は見透かしたように、
「大丈夫!彼女と新井先生は赤い糸で繋がってるからね〜!心配なんて必要ないわよ。」
ポンと肩を叩く。
「…え?」
どういう事か聞こうと思った時にはもう姿がない。
『さっきの…見られたのかな…。いや…誰もいなかったと思ったが…。』
粕谷先生の謎の言葉に振り回される湊。
モヤモヤ腑に落ちないことの連続で頭を抱えながら職員室に戻って行く。




