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「では、夏休み明けのテストの結果を返却する。名前を呼ばれたら取りに来る様に!」

 あのテストの日から一ヶ月程が経つ。


 夏休み気分もようやく抜けて落ち着いた毎日が過ぎて行く。


 優の付き纏いの件は気配もなくなり、彼女の両親との話し合いのもと、湊の送り迎えはひとまずなくなった。


 優と湊の噂も特に発展する事もなく、立ち消えして行きそうな雰囲気だった。




 優は安心する気持ちとは裏腹に、湊との繋がりが途絶える方が辛く感じていた。


「羽鳥莉子。」

 湊に名前を呼ばれテストの結果を取りに行く。


「頑張ったな。」

 にっこり微笑む湊に笑顔で返す莉子。


 優にはこの二人の関係だけは特別に見えてしまう。




「杏、斗真。今日、ちょっと帰り付き合ってくれないかな?」

 莉子の気持ちも整理がつき、今までの事を、二人にちゃんと説明しなきゃと思っていた。


「…いいよ。」

 杏は斗真をチラリと見る。


「俺も、部活は引退したし、付き合うよ。」

 杏とは少し気まずそうにしていた斗真だったが、莉子はこの二人の事も気になっていた。


「じゃあ、放課後ね!」

 莉子は二人に背を向け席に着く。


 斗真と杏は顔を見合わせて、

「じゃ、放課後な。」


「うん。」

 そう、たどたどしく会話する。




 莉子の最近の楽しみはやっぱり湊の授業だ。

 楽しい国語の授業な上に、ずっと堂々と湊を眺めていられるからだ。


 教壇に立って授業を進める姿を見て、あの人が自分の彼なのだと思うとなんだか不思議な気分になる。


 プライベートでは一切会話を一ヶ月近くしていないのに、たまに合う視線がとても優しくて莉子はそれだけで安心するのだった。







 放課後三人は学校の近くの喫茶店でテーブルを囲む。


「二人には色々心配かけたし、はっきりちゃんとした事伝えられなくてごめんなさい。」

 一番最初に頭を下げる莉子。


「なによ、改まって。」

 笑いながら杏は話すが、斗真は複雑な表情が消えない。


「田中さんの噂の件、詳細は立場上詳しくは話してもらえなかったんだけど、私の誤解だったの。」

 ここ一ヶ月の二人の雰囲気を見ていると、まぁそうだろうなと二人は簡単に納得した。


「じゃあ、無事付き合ってるって事ね!」

 杏が安心したようにため息をつく。


「うん。でも卒業までは一切プライベートの連絡はとらないって二人で決めたの。」

 切なく微笑む莉子が、杏はなんだか大人に見えた。


「えっ?どういう事?」

 杏は驚く。


「受験の大切な時期だし、ちゃんと卒業したら一緒に住もうって。」

 杏は目を丸くして口に手を当てる。


「二人とも…本気なんだね。」

 確認する様に聞く杏。


「うん。先生は私と付き合う前から、ちゃんと前の彼女とも別れてくれていたし、田中さんのことも誤解だった。誠実にしてくれてるから、心配しないでって、今日は二人に言いたかったの。」

 うんうんと頷く杏。



 ずっと黙っている斗真に体を向き直す。

「斗真。今までたくさん助けてくれて、守ってくれてありがとう。とっても感謝してる。なんで杏も含めて三人で話したかったのか…。杏に対しても、斗真に対しても、これ以上、私の事で中途半端に振り回したくないって思ったの。本当に今までごめんなさい。」

 深々と頭を下げる。


「莉子…。」

 斗真も杏も顔を見合わせる。


「莉子が幸せなら…俺はそれでいい。はっきり言ってくれてありがとな。」

 斗真は瞳に諦めの色を見せる。


「あ〜、くっそー!新井のやつに一言、これ以上莉子のこと泣かすなよって言ってやりたいんだけどな!!」

 天井を見上げてうなだれる斗真。


 杏はそんな斗真を見て心が痛む。


 ふっと杏を見た斗真は、

「なぁ、今度デートしよっか!」

 突然の斗真の誘いにタジタジになる杏。


「俺、まだそう簡単に気持ち切り替える事できないだろうけど、仲良い友達からならさ、いいかなって。」

 杏に笑顔で話す。


「ホントに?!嬉しい!!友達で全然いい!!お試しで十分!!」

 本気で喜ぶ杏を見て莉子も嬉しくなる。




 喫茶店を出た三人はそれぞれの道を帰って行く。




 夕方の空はもう肌寒い季節に移り変わっていた。

 莉子は清々しい気持ちでいつもの公園に立ち寄り、いつものベンチに座る。


 日が暮れるのも早くなったなぁ…とあっという間に薄暗くなる空に寂しさを覚える。

 文字を読む明るさはなさそうだな…と一度出した本をカバンにしまい込む。


 肩にかけていた薄手のストールを巻き立ち上がろうとした時だった。



「…莉子?」

 愛しい声が聞こえてくる。


「…先生?」

 薄暗い夕闇のなか、莉子の顔には光が差す。


「もう、帰っちゃうのか…?」

 教壇では決して見せない湊の寂しそうな表情にキュンとする。


「もう少し…いよっかな。」

 ハニカミながら座り直す莉子。


 そっと隣に湊が腰掛ける。



「毎日逢ってるのに、なんか久しぶりですね。」

 莉子は新鮮な気持ちで湊に語りかける。


「あぁ。…ずっと、こうして莉子と二人で話したかった。

 今日は…、特別、たまたま逢ったってことで…少しくらいいいよな?」

 湊の優しい言葉が莉子を包み込む。


「先生、寒くないですか?」

 薄着だった湊の肩に莉子のストールを半分かける。


「あったかいな…。ありがとう。」

 肩を寄せ合う二人。


「莉子…。」

 湊の呼びかけに反応してそっと顔を向ける。

 ストールで二人の頭を覆い隠す様にして密かに唇を重ねた。



 莉子は幸せだった。

 恋人としての時間が毎日続かなかったとしても、湊の気持ちは溢れるくらいに莉子には伝わっていた。


 この幸せがいつまでもつづくといいのにな…

 二人は静かに願うのだった。



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