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二人の気持ち

 ヴーヴー



 莉子の部屋で何度もさっきから着信が鳴っている。

 湊からだ。



 莉子は出るのが怖かった。

 別れを告げられると思っていた。




 斗真の励ましと、夏休み中湊への感情を封印するために勉強に集中してきた事が吉と出て、いざテストが始まるとしっかり集中できていた。



 しかしテストが終わると同時に、また莉子の聞きたくない湊と優の噂が嫌でも耳に入ってくる。


 学校が終わると一目散に家に帰り着いてからはベットに横になってぼーっと天井の模様を眺めていた。


 しかし夕方になってから何度も湊からの着信があり、莉子はどうしたらいいのか分からなくなっていた。





 どういうつもりなんだろう…?


 莉子は思い余ってスマホの電源を切って机の引き出しに入れる。


「はぁ…。」

 机に突っ伏し、参考書を手に取るが何も頭に入ってこない。


「もう…寝よ…。」

 何も手につかない莉子は早々と布団に入り昨日の寝不足を取り戻すかのように眠りの世界に吸い込まれていった。





 湊は何度かけても電話に出ない莉子を心配していた。

 メッセージを送っても既読もつかない。


「……莉子…。」


 このまま莉子の家に行こうかと思ってしまう。



 朝の斗真と莉子の顔が頭にチラつく。


「……くそっ!」

 無力な自分が情け無い。




 その日から莉子は湊と目も合わせなくなった。


 湊は困惑する。


 なんとか莉子と話がしたい…。


 次第に莉子に送る湊の視線が多くなる。


 莉子は必死に視線をそらす。


 その様子は二人の関係を知っている杏と斗真の目から見てもあからさまに分かるものだった。


 そして、いつも湊を見ている優にも彼の異変はすぐに分かった。




『りこって…まさか羽鳥さんのことだったの…?』

 そう疑い始める。



 湊は自分をコントロール出来ないくらいに莉子を求めていた。



 放課後たまたま図書室の前を通ろうとする莉子を見かけて引き込む湊。


「先生……?!」


 その強い力に驚く莉子。


「…莉子…!」

 湊はやっと掴まえた莉子を離すまいときつく抱きしめる。



「先生…私……。」

 莉子はどう自分の気持ちを伝えたらいいか分からず言葉に詰まる。



「…俺の事…もう嫌いになったか??」

 湊の声が微かに震えている。



「そんな……!嫌われたのは私の方でしょう…?」

 言いたくなかった言葉をついに口に出す。

 莉子は終わりを覚悟し閉じた眼から涙が一筋頬を流れ落ちる。


 湊は莉子の頰の涙を拭い、そのまま唇を重ねる。


「………!?」

 予想外のキスに莉子は目を開く。


 唇を重ねながら目の前にある、あんなにも求めていた湊の顔を見て再び目を閉じる。


 莉子はじんわりと心の中が暖かくなって行くのを感じる。


『やっぱり大好き…。』

 心に溜まった寂しさと、優への嫉妬を全て湊の唇から吸い取ってくれるような濃厚なキスに、もうどうなってもいいと覚悟する。



 湊も一緒だった。

 莉子を失ったら、全てを失う事と一緒だと身に染みていた。


 柔らかな莉子の唇が湊の気持ちに答えるように包み込む。



 時が止まったかの様に二人はお互いを求めあった。





 見つめあったまま名残惜しい気持ちを抑えながら唇を離して行く。



「莉子…。俺は莉子しか見てない。何があっても…。」

 真っ直ぐ莉子の瞳を捉える。


「ごめんなさい…、信じてあげられなくて…。お別れを言われるのが怖くて、私ずっと逃げてた…。」

 自分の不甲斐なさを恥ずかしく思っていた。


「なぁ、莉子。もう不安にさせたくないんだ。卒業したら、一緒に住まないか?」

 もちろん自分達だけで決められることではないが、一つでもお互いに強く想い合える希望のようなものが欲しかった。


「…はい!」

 久しぶりに見た莉子の笑顔に、湊は嬉しさが込み上げてくる。




「今回の噂になってる事は色々事情があるんだ。詳しくはまだ言えないけど、これからも彼女を送って行く事はあると思う。でもずっとじゃないんだ。俺がいけない時は他の先生がついて行ったりしてるし、お願いだから俺は莉子だけだっていう気持ち、信じて欲しい。」

 湊の真っ直ぐな瞳から伝わる気持ちは、きちんと莉子の心の中に広がって行く。



「…はい。3月まで…私先生の事信じれる女性になれるように修行します。」

 照れ笑いをしながら優しい目をする莉子にもう一度キスをする湊。



「………じゃあ、な。」

 また暫く個人的な連絡が取れない日が続く事を覚悟して、再び教師と生徒の二つの立場に分かれて行く。


「…先生、またね。」

 名残惜しそうに図書室の扉を閉め出て行く莉子。



 湊は図書室の椅子に座りまた莉子と距離のある生活をしなければならないのかと思うと辛かった。


 窓を開けると夏の名残はあるものの、秋の匂いとともに真っ赤に染まった夕焼けがどこか寂しさを運んでくる。


「3月まで…あと半年か…。」

 長い月日を想像しながら、ため息をつくのだった。









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