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「さて、このテストで、夏休みのみんなの頑張りがバッチリ分かるぞ!

 希望校もこのテストの結果を見ながら絞って行くので、決して手を抜かないように!」

 朝からピリピリとした空気が流れる中、莉子はひとり真っ赤に目を腫らしている。



「ねぇ、莉子大丈夫??」

 後ろの席の杏が心配そうに声をかける。



「……うん、色々あってあんまり寝てなくて…。」

 莉子は虚ろな目で答える。



「莉子…。夏休み、頑張ったんでしょう?

 一緒にいい結果出せるように今日はやな事忘れよう!」

 必死に励ます。



「……うん、そうだね。」

 心ここに在らずの莉子にこれは何を言ってもダメか…と諦める杏。



 そんな二人を少し離れた席から見ていた斗真は怒りに震えていた。

『一体どう言う事なんだ。莉子が噂だけであんなに落ち込むだろうか…?』

 教壇に立っている湊を睨みつける。



 湊は斗真には気づいていないが、明らかに様子のおかしい莉子には朝一番に気づいていた。


『まさか…誤解してんじゃないよな…。』

 この大切な日に、もしそのせいで莉子が本調子を出せなかったら…と心配になる。


 HRを終えてトイレに向かおうとする莉子を斗真が引き止める。


「莉子。大丈夫か?」

 そっと莉子の手を取り、手のひらにマーブルを乗せる。


「それでも食って元気出せ!朝にチョコ食うと頭にイイってなんかに載ってたぞ。」

 莉子の表情をじっと見つめる。


 手のひらのマーブルを見て力なく微笑む莉子。

「斗真…。ほんとにありがとう。少し元気出てきた。」


「頑張ろうぜ、お互い。」

 ポンと肩を叩く。


 ようやく莉子に笑顔が戻ってきたのを見て斗真はホッとする。


 仲良く教室に戻って行く二人。



 湊はあんなに元気のなかった莉子が斗真と笑顔で戻って来たことに、恥ずかしくも嫉妬心が湧いてくる。


 逢えないことが辛いのはもしかすると莉子以上に湊の方なのかもしれない。

 毎日スマホを手にとっては連絡したい気持ちを必死に抑え、好きな秋田譲治の本を読み始めると莉子との会話を思い出す。


 莉子が使ったマグカップを眺めては湊の家を訪れた日を思い出し、キッチンに彼女の幻想を抱く。



『俺は病気かもしれない。』

 自分でそう思ってしまうほどに、毎日毎日、莉子が片時も頭の中から消えることはない。



 特に斗真といる時は敏感に反応してしまう。

 全ての生徒に公平でなければならない立場なのに…。



「はぁ…。」


 職員室で大きなため息をつく湊。



「どうしたんです?新井先生。大きなため息ついて。」

 声をかけたのは

 養護教諭の粕谷先生だ。


「いや…ちょっと。」

 こんな悩みを打ち明けられるはずもなく会話を逸らす。


「新井先生、生徒たちの間で田中さんとの事かなり噂になっていますよ?

 知ってました?」

 心配そうに声をかける。


「え?どういうことですか?」

 びっくりして聞き返す。


「ほら、例の件で彼女の事を送ってる二人の姿、結構たくさんの子が目撃してるみたいで…。

 事情は伏せてるでしょ?だから新井先生のファンの生徒がヤキモチ妬いてるのは間違いないですよ。先生モテるしね。」

 粕谷先生が少し面白そうにしてるように見えるのは自分だけだろうか?


「いや…全然知らなかった…。」

 がっくりと肩を落とす。


 きっと莉子も誤解してるのかもな…。

 昨日は田中さんと二人きりで歩いているところもろに見られたし…。

 でも本当の事はいえないしなぁ…。


 再び肩を落とす湊。


「新井先生が何を悩んでいるのかは知りませんが、失ったら困る人の誤解は早めに解いておいた方がいいですよ。どんな理由があってもね。」

 ポンと背中を叩いて去って行く。


 粕谷先生の異様なオーラと自分の心を見透かされているようなアドバイスに恐ろしさすら感じたが、後から取り返しのつかない結果になるくらいなら莉子には本当の事を伝えるべきかとも思った。




 とにかく、今の状態をなんとかしなければ…!

 湊は今夜莉子に連絡しようと心に決めた。

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