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誤解

 その日莉子は極力湊と顔を合わせないようにしていた。

 言葉なんかよりも先に涙が出そうだったからだ。



「……莉子。」

 杏は心配そうに莉子の後ろをついていく。


「…杏。ごめん、今日はひとりで帰るね。」

 弱々しい笑顔を見せながらフラフラと歩き出す。



「明日…!テスト頑張ろうね…!」

 歩いていく莉子に届くように大きな声を出したつもりだったが届いていないようだった。




 校門を出て家に帰る気持ちになれず、湊との思い出のある公園に足を運ぶ。


 二人で座ったベンチに腰掛け、遠い昔の事のようにあの楽しかった時間を思い出す。


『田中さんとも…そう言う時間を過ごしてたのかな…。』


 想像するだけで心臓が潰されそうな痛みが走る。


 どうにもならない気持ちを吐き出すように、大きく深呼吸をして立ち上がる。




 遠くを見やると見覚えのある姿が目に飛び込んできた。


「先生!」

 大きく手を振って自分の存在に気づいてもらおうとするが、彼の視線は隣にいる優に向いていた。


「…せ…んせい…?」

 やっぱり現実だったと、振り上げた手が地面に吸われるように下がっていく。



『どうして?一生一緒にいてくれるんじゃなかったの??』

 そう叫びながら問いただしたかった。


 でも、それをしたら全てが壊れてしまう気がしてその場に立ち尽くす。


 涙がツーっと頬を伝うが、もう彼に拭ってもらう事はないのだな…と悲しくなる。


 徐々に近づいてくる二人を莉子は避けるようにすれ違い走り抜ける。




「……?莉子…?」

 一瞬だったが走り去った女生徒の残り香は湊の大切な莉子そのものだった。


「…りこ?」

 優は聞き覚えのある名前を口に出す湊の顔を見る。




「あ…、いや、なんでもない。」

 表情が曇っている彼の顔を優は見逃さなかった。


『りこ…?一体誰の事だろう…?』

 優は悶々とする。



 今日も優を予備校に送り届けたらすぐに背を向ける湊。

「先生、いつもありがとうございます!」

 去りゆく背中に向かって話しかける。


「あぁ。」

 くるりと振り向いて返事をするとまた歩き出していく。




『りこさんって…先生の彼女なのかな…?でもさっきの子、うちの制服着てたような…。』

 いつまでも消えない疑問に流石の優も授業が身に入らないのだった。






 湊はさっきすれ違った女生徒が莉子だと確信する。

 まさかとは思うが、一緒に歩いていた優の事を誤解してないだろうか…?


 不安な気持ちが溢れ出す。



 あんなに連絡を取らないって言っていたのにスマホを手にとっている自分がいる。


『いや、待て。連絡とらないって約束したんだ。莉子だってきっと分かってくれてるはずだ。』


 ギュッとスマホを握りしめる。



『そうだ…信じてくれてるはずだ…。』

 そう言い聞かせながら明日のテストの準備で再び学校に向かうのだった。







 莉子は行く場所をなくしフラフラ街中を歩いていく。

 頭の中は真っ白になり何も考えられない。



 ドン!

 大きな身体とぶつかるがそこに意識はない。



「ちょっとまて!コラ!!」

 人相の悪い身体の大きな男性が莉子の手を引っ張る。


「ぶつかっといて、ごめんなさいもないんかよ!!」

 莉子の胸ぐらを掴みながら大声で怒鳴る。


 その声にハッと我に返り、

「ご、ごめんなさい!」

 と謝ったが遅かった。


「可愛い顔してるなぁ。ちょっと一緒に来てもらおうか?言葉じゃなくてちゃんと謝罪してもらわないとな。」

 ニヤニヤしながら莉子を車に引き摺り込もうとする。


「や、やめてください!!」

 そう叫ぶが運悪く聞く耳を持ってくれる人が周りにいない。




「おい!!やめろ!警察呼んだからな!」

 聞き慣れた声が聞こえた。


 慌てて手を離す男。

 車に乗り逃げ去った。




「斗真…。」

 足に力が入らずその場に座り込む莉子。


「おい、大丈夫か?危なかったな…。」

 心配そうに覗き込む斗真。


「斗真…ありがとう。色々…ごめんね。」

 傷つけてばかりの斗真に、また助けられて合わせる顔がない莉子。


「気にすんな。俺たち幼馴染だろ!」

 笑顔で手を差し出す。


「うん……。」

 その手を取り、小学生の頃手を繋いで歩いたのを思い出す。

 あの時も私は斗真に守られてたのかもしれないな…


「斗真…。本当にありがとう…。」

 泣きながら言う莉子に、斗真は昼間の湊と優の噂が原因かと察する。



「莉子。前に俺莉子が振り向いてくれるの待ってるって言った事…、今でも変わらないからな。」

 ポンと優しく頭に手を置き、足早に帰って行く。



『斗真…、ごめんね…。』

 切ない斗真の気持ちが苦しいほど今の莉子には分かる。


 どうすることもできない心の痛みに耐えながら、ポロポロこぼれ落ちる涙を拭う事なく、ひとり家に向かうのだった。




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