衝動
湊は学校に寄り、今日の優の件を報告する。
湊の意見を柔軟に他の職員も受け入れ、彼が都合のつかない日は別の教師が送っていくような話になった。
ただこの問題が解決するまでは大きな話にならないように公言はまだ避けるよう釘を刺された。
湊は莉子の顔が思い浮かぶ。
良いことをしているはずなのに、罪悪感にかられてしまう。
『今日は逢えなかったな…。』
一日色々なことがあって頭がいっぱいだったが、帰り道空を見上げると急に莉子が恋しくなる。
今が一番大切な時期である莉子の勉強の邪魔になるような事は決してしたくない。
『どんなに逢いたくても、もう自分から彼女を呼び寄せるような事は控えなければいけないな……』
恋心とは裏腹に、教師の自分が顔を出す。
『逢いたい……逢いたいなぁ……。』
優の勉強する姿を見て、本来の受験生の姿を目の当たりにした湊は莉子への想いを封じようとすればするほど、今すぐにでも逢いたくなる気持ちが爆発しそうになる。
こんなにも一人の女性に夢中になれる自分がいた事に正直驚いていた。
『もう、失いたくない…。』
何故かそんな感情に襲われる。
本当は片時も離していたくない…。
どんどん深みにはまっていく莉子への愛情を振り切るかのように大きく首を振る。
アパートの階段を昇りきった時だった。
「先生…!来ちゃった…。」
玄関の前に隠れるように座り込んでいた莉子が立ち上がる。
「莉子……!」
一昨日逢ったばかりなのに、何年ぶりかに再会した恋人同士の様に嬉しさを超えた感動すら覚える。
莉子の肩を強く抱き、急いで玄関を開けた瞬間、二人は呼吸を忘れる程、貪る様にキスをする。
言葉なんていらなかった。
繋がる唇から言葉にならない愛情を交わし合う。
きっと、新学期になれば毎日顔を合わす事ができるし、もう二度と逢えないわけではないのに二人は離れることが出来ない。
湊は彼女が卒業するまでは身体の関係は一線超えないよう湊は心に決めていた。
これ以上二人きりの時間を増やして行けばきっとキスより先の事も求めあってしまうだろう事も簡単に予想ができる。
「莉子……。俺たちこんなんじゃ、やっぱダメだ。
莉子にしっかり将来の事と向き合う時間を作って欲しいし、俺のせいで受験勉強の時間を削らせたくないんだ。暫く連絡とるのやめよう。」
湊は身を切られるよな苦しさを見せない様に莉子を抱きしめながら話す。
「先生……、そんな!逢いたい、もっともっと……。」
大粒の涙が薄暗い玄関の中で微かな光を放ちながらこぼれ落ちる。
「なぁ莉子…。卒業したらちゃんと付き合おう。
俺、待ってるから…。」
莉子を真っ直ぐな目で見つめる湊。
莉子の潤んだ瞳からまた止め処もなく涙が流れ落ちていく。
「莉子、愛してる。一生、一緒にいたい。」
プロポーズの様なその言葉が莉子の心にじんわりと広がっていく。
「私も…一緒にいたい…。本当に待っててくれますか…?」
「あぁ。もちろん。」
もう一度誓いのキスをするかの様に、お互いの存在を確かめながら唇を重ねる。
この温かさを、どうか、どうか…いつまでも忘れませんように…




