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思惑

 合宿も終わりを迎え、バスの前に集合する生徒たちの群れをかき分けながら点呼を取っている湊。


 莉子はそんな教師の顔をしている彼を見ながら、昨日の出来事が現実なのか自分の記憶を疑ってしまう。

 結局湊の住所も分からないまま、このまま帰り着いて、次に会えるのは新学期になってしまうのかな…と少し悲しくなる。


 たくさんの女子生徒が湊に声をかけて談笑している姿が目に入るたび心がチクチクと痛み出す。


 自分はこんなにも心の狭い人間だったのか…バスの窓に映る自分と向き合うとヤキモチが顔に出ている事に気がつく。




「おい、浮かない顔してんな?」

 莉子の前の席から振り返り上から覗き込むように莉子の様子を斗真が眺めている。


「そんな事ないよ!」

 しっかりと斗真に様子を見られていた事に焦りを隠せない。


「ほら、チョコやるよ!」

 差し出された掌には、莉子が昔から好きだったマーブルの小袋が乗っている。


「…ありがとう!」

 急に笑顔になる莉子。

 その幸せそうな笑顔から斗真はやっぱり目を外すことできない。


 斗真だけは、二人が山小屋にいた時間に何かがあったのではないかと疑っていた。

 帰ってきた後の二人に特に変化が見られないことが、余計に良からぬ想像を加速させた。


「やっぱりチョコはマーブルだよね!杏も食べる?」

 二人のやりとりを見ながら、杏は杏で複雑な気持ちでいた。



「ほら、結城さんにもあげるよ。」

 そっと手を差し出す斗真。


「……え?いいの?」

 表情が光を指したように明るくなり受け取る杏を見て莉子も嬉しくなる。



 それぞれの切なく行き違った想いが蠢きあう中、湊の目には斗真と莉子の仲睦まじい姿が飛び込んでくる。

 想いを悟られまいと必死に笑顔を作り女子生徒たちをあしらって行くが、我慢できずに莉子に近づいていく。


「羽鳥さん、体調大丈夫?」

 斗真と莉子の会話を遮るように、一言湊は莉子に話しかける。


「…はい。」

 にっこりと湊の目を見て返事をする莉子は一瞬でも昨日に戻れた気がして心が震える。



 斗真は確信した。

『彼女がいるくせに、莉子に手をだしやがって…!』

 思わずキッと湊を睨みつける。


 湊は以前莉子から相談を受けて斗真の気持ちは大体わかっていただけに、静かに受け止めて通り過ぎていく。



 斗真は莉子を諦めなければ…と思いかけていたのに、莉子を渡す相手が湊であることがどうしても許せなかった。



 湊の後ろ姿に向かって、『おい!』と叫びそうになるところをそれぞれの想いを全て知っている杏が斗真の腕をぐっと掴んで制止する。



「結城さん…。」

 斗真をみて首を横に降る杏。



 危なくやり過ぎそうになる自分を恐ろしく思いながら、杏に感謝する。

「結城さん…、帰ったら、ちょっと時間もらえないかな?」

 斗真は何かを知っているかのような杏に聞きたいことがたくさんあった。


 莉子の顔を見ると、うんと頷く。



「わかった。帰ったら、連絡するね。」

 そう言って斗真に前を向かせる。



 莉子は一部始終を見ていてどうすることもできない自分を情けなく思った。




 バスは無事、学校に到着する。

 下車する生徒を送り出す湊に、莉子は紙切れのような物を一瞬ぶつかるように触れた手から渡される。


 人目のつかない場所に行きそっと紙を開くと、綺麗な字で住所と電話番号がかかれていた。



「先生…。」

 莉子は嬉しさと共に、みんなに嘘を付いている背徳感が襲ってくる。

 そのまま悟られまいと顔を上げずに家路につくのだった…。







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