秘密の恋
激しく聴こえていた雨音は次第に静かになっていく。
まだ乾いていないスボンを履き、外の様子を伺いにドアを開ける湊。
「雨は止んできたな…。」
夕日に照られ輝く逞しい体つきの湊の姿を見て莉子は、
『この人の彼女になれたんだな…私。』
暗闇でよく見えなかったが、今改めて実感が湧いてくる。
「服、外に出してたほうが乾きそうだな。」
少しでも日の当たる場所に、莉子の服と自分の服を干していく。
「私の分までありがとうございます。」
湊の力を借りるしかない山小屋から出られない姿で、莉子は申し訳なさそうに伝える。
「敬語、やめようぜ!さっきも言ったけど、二人でいる時は教師と生徒の関係、忘れたいんだ。」
振り返る湊は教師ではなく、莉子の恋人の顔だった。
「…うん!」
莉子は幸せそうに微笑む。
「やっぱ、晴れたとはいえ、夕方だしまだ寒いな。」
扉を閉めて中に入る湊。
「これから…どうしようか…。」
莉子の隣に座り真剣な表情になる。
「学校では、私今まで通りにしてるから…。
ただ…、もう少し…湊と一緒にいる時間が欲しい…。」
莉子は伝えるなら今しかないだろうと、本音を素直に伝える。
まだ名前を呼ぶことの違和感があるものの、急に距離が縮まった様で温かい気持ちになった。
「外で会うのも…危険だよな…。」
湊は考えるがもう一つしか答えは出てこなかった。
「俺の家の住所教えるから…、会いにきてくれるか?生徒じゃなくて、恋人の莉子として…。」
頭を掻きながら恥ずかしそうにお願いをする湊。
「…いいの…??」
嬉しさが隠せない莉子。
思わず湊の首に抱きつく。
「おい!ちょっと、見えるって!!」
焦りながら肌蹴たブランケットを莉子に掛け直す。
「や、やだ!!見ました?!」
突然敬語が復活する莉子に、
「マジで敬語やめてくれ…!教師であること思い出しちまう!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる湊を見て、莉子は幸せが込み上げてくる。
「努力は、しますね。」
笑いながら答える莉子。
「毎日…行きたくなっちゃうかも…。お家。」
モジモジと話す莉子に、
「俺も毎日逢いたい、同じ気持ちだよ。
でも、受験生だってこと忘れんな?いま、一番大切な時期なんだから、頼むから約束してくれ!」
急に教師ぶった言葉に、
「先生になってますよ!…でも、ちゃんと分かってます。心配かけたくないから…、私頑張る!」
今まで頭の中を霞のように覆っていたモヤモヤが、雲が切れていく青空のように晴れ渡る。
なかなかプライベートの恋人同士になりきれない二人は、笑顔で顔を見合わせる。
それから今日まで叶わなかった終わりの見えない他愛のない会話を、止まることなく重ねていった。
莉子は今日の日の幸せを一生忘れないと、心に刻み込む。
すっかり夜が更ける頃、ようやく道が開通したと連絡があり、数人の教師たちが山小屋に迎えに来た。
二人は何事もなかったように、教師と生徒の関係に戻る。
誰一人として、この山小屋で起こったことを疑う者はいなかった。




