三者面談
「夏休みも近いが、その前に三者面談があるからな!
就職か進学かよく考えて、家族の人と相談してください!」
大きな声で生徒たちに気合を入れる湊は進路を決め、そろそろ具体的に動き出す準備を始めていた。
「ねぇ、莉子はどうするの?進路。」
杏は、おそらく成績のいい莉子は進学だろうとは思っていたが、進路についてあまり話した事がなかったので改めて聞いてみた。
「…うん。まだ悩んでる。本屋さんとかに就職もありかなって、最近思い始めてて…。」
莉子は頬杖をつきながら窓の外に目をやる。
いつもと変わらない風に揺れる木々の風景は心の空気を入れ替えてくれる様な気持ちにしてくれる。
自分は一体何がしたいんだろう…。
どれだけ考えても頭に思い浮かぶのは湊のことばかりだ。
あの体育祭で、杏は莉子に湊との関わりを少しでも増やしてあげようと、考え抜いて思いついたアイディアだったが、どうやら逆効果だったか…と、後悔していた。
「莉子、体育祭の時さ…。なんかごめんね、余計なことして。」
湊が莉子を背負ってゴールしたところまでは杏も目撃していたが、その後保健室に二人が消えてからの話は何も聞いていなかった…と言うか聞けなかった。
保健室から戻ってきた莉子は目を真っ赤に腫らしてずっと俯いたままだった。
周りの生徒は莉子がみんなの前で転んでしまった事がよっぽどショックだったのだろうと…、気を遣って突っ込む者もいなかった。
「ううん…。先生はまだ変わらず私のことを想っていてくれたんだよ…。
それが分かって正直に嬉しかった。ありがとね、杏。
でも、私はその気持ちに対して、何も答えを伝える事ができなかった…。」
苦しそうに言葉を吐く莉子に、『うん』と優しく背中をさする。
「私、ちゃんともう一度先生と話したい…。
進路の事も考えなきゃいけないのに、私ちっとも先の事考えられなくて。」
莉子の潤んだ瞳を見ているとなんとかしてあげたい、そう思った瞬間、パッと閃いた。
「ねえ、夏休みの強化合宿行くでしょ?」
莉子の学校では、3年の夏休みに、進学予定の希望者のみ対象の朝か晩まで缶詰になって山奥で勉強する合宿が催される。
「うん…。一応参加するけど…。」
顔を上げる莉子。
「その時にさ、私が二人で話せる様にチャンス作るからさ、しっかり話してきなよ!!」
杏の表情からワクワクが零れそうだった。
「杏…、そんなに簡単にいくわけないでしょ?」
ふう…とため息をついて呆れる莉子。
「ちょっと!私の力を信じなさいよ!杏様が人肌脱いであげるから!!」
ニヤリと笑う杏の顔に不安を覚える莉子。
「ねぇ、大丈夫だよ、私は!」
万が一みんなに自分たちの事がバレる様な事があったら大変…そんな気持ちで暴走しそうな杏を制止する。
「いいからいいから、任しといて!!」
そう言いながら鼻歌を歌いチャイムの音に乗りながら席に戻る。
莉子は複雑な気持ちで杏の背中を見送るのだった。
三者面談面談当日、母親も交えて淡々と進んで行く。
「羽鳥さんは…、進学希望でいいんだね?」
そうまっすぐな眼差しを莉子に向けてくる湊。
「はい。まだ具体的に進学先は決まっていませんが、そのつもりです。」
莉子はその視線を受け止める様に答える。
「羽鳥さんは成績も安定してるしある程度点数も取れているので、このまま頑張ってください。」
言葉通りの気持ちを、心を込めて莉子に伝える。
「はい、先生。」
湊が応援してくれている気持ちを、しっかりと受け止めて彼を安心させようと思った。
もしこの場に二人きりだったら…、
『卒業したら、私と恋人になってくれませんか?』
そう口にしていたかもしれない。
莉子の母は教室を後にした後、なんとなく二人の間に親密なく空気を感じていた。
教師に恋い焦がれることはよくありそうな話だが、まさか自分の娘も…?
そんな疑問がつきまとった。
しかし、湊の表情は少しの濁りも見せず、常に莉子に誠実だった。
「………。」
この事は、静かに自分の心に留めてておこうと、少しずつ大人になっていく娘の姿を見守るのだった…。




