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悲しい恋話

「お邪魔します!」

 久しぶりの杏の家は一年ぶりくらいだった。



「今日親いないから、少しくらい騒いでも大丈夫だから!」

 もともと杏の父親は出張がおおく、母は友達と温泉旅行中だった。



「全く受験生の娘置いて温泉旅行なんて、いいご身分だよね。」

 やれやれと笑いながら杏は呆れる。



「杏のお母さん活動的な人だもんね。」

 前回あった時を思い出しながら、『この母からこの子ありか』と納得した記憶があった。



「そう!まぁ、気が楽でいいんだけどね。」

 杏の部屋のドアを開け荷物を下ろす。



「莉子、今飲み物持ってくるけどなにがいい?」

 制服のブレザーを脱ぎハンガーにかけながら、莉子に聞く。



「杏と一緒でいいよ。」

 床に腰を下ろし部屋をぐるりと見渡す。

 可愛い置物や、沢山の写真で一杯の杏の部屋は女子高生らしい生き生きとした部屋だった。



 莉子は立ち上がり、沢山の写真に目をやる。

 高校に入ってから今まで色んな事があったなぁ…と振り返り懐かしくなる。



 こういう毎日も残り一年か…。

 どことなく高校三年生は大人の一歩手前のような括りに感じる莉子は、本当に楽しめる時間はもう終わっているのかも…、そう切なくも感じていた。



 ふと、杏の机の上にある一枚の写真立てが目に入る。

 そこには修学旅行での笑顔の杏と斗真がツーショットで写っていた。



「これ…。」

 そういえば、杏に頼まれて莉子が撮った写真だった。



 あの時なぜか杏の顔が固くて私が何度も撮り直しをしたっけなぁ…と思い出す。



「……ん?もしかして……。」

 今まで莉子は恋愛に興味すらなかったため、杏の気持ちや、斗真の気持ちを気付こうともしなかったが、今ならこの時の杏がなぜこんなに表情が固かったのか、初めて分かる気がした。



「おまたせー!!……あっ!!」

 オレンジジュースが乗ったトレイをドシンとテーブルの上に置き、机の写真に一目散に駆け寄る杏。



「あ、あのっ!……見ちゃった……よね?」

 決まり悪そうに杏は莉子を見る。



「うん、見ちゃった。ごめん。」

 杏の反応に笑いを堪えながら顔の前で手を合わせる。



 深刻な顔にパッと切り替わり、

「ごめん…、私二人が付き合ってるのに…。」

 申し訳なさそうにどんどん声が小さくなる。



「杏!私斗真と付き合ってないよ。」

 杏の肩にぽんと手を置いて彼女の緊張が解けるよう優しく微笑む。



「うそでしょ…?だって、この前抱き合ってたじゃない!」

『そういえばそうだった…。』思い出して莉子は焦り出す。



「斗真に告白されたのは本当。でも、私は斗真の事幼馴染としか見れなくて…。仕切り直して、斗真と付き合う気持ちになれるかどうか、男の人として、見てみるねって言ってた時に…。」

 莉子はどこまで杏に説明しようか考え出したら言葉が詰まってしまった。



「莉子…?どんな事があったって、莉子の味方だよ?

 せっかく恋愛の話ができるようになったんだから、なんでも話してよ?」

 杏は深呼吸する。


「私は、ずっと莉子の事好きだった斗真くんの事が好きでした。

 莉子が斗真くんと付き合ってるって思ってた時も、ずっと諦められなくて好きだった。」

 真剣な眼差しでまっすぐと莉子に打ち明ける。



「ごめんね…莉子。」

 もし莉子が斗真の事好きだったとしたら裏切りになる気持ちを、杏はずっと心の中で思い悩んでいた。



「杏…。気づかなくって…、私無神経で本当にごめんね。

 今なら、杏の苦しかった気持ち、私ちゃんと分かるから。」

 頭を下げる莉子。



「莉子…。」

 杏と顔を見合わせて二人とも瞳を潤ませギュッと抱き合う。



「杏…。私、誰にも言うつもりなかったんだけど…、杏の事本当に親友だと思ってるから…、聞いてもらっていいかな。」

 莉子は誰にも言うつもりがなかった湊への想いを少しずつ杏に語り始める。



 春の始業式から今日までの事を話し終わる頃には、杏は感極まって嗚咽していた。


「莉子…、辛かったね…。」

 ヒックヒックと呼吸の乱れる杏の背中を摩りながら、自分の事のように泣いてくれる杏が親友で本当に良かったと思った。



「杏、私の恋は多分ここで終わっちゃうけど、杏はこれからだよ!

 私と斗真はまだ気まずい感じは残ってるけど、あいつ本当にいいやつだからさ。

 杏が彼女になってくれたらきっと斗真幸せになれるよ。」

 莉子は心から思う。



「莉子…。ありがとう。私振られちゃっても頑張る。

 だから、莉子も諦めないで。ちゃんと気持ちは繋がったんでしょう?

 一年後は卒業なんだよ?諦めるにはまだ早すぎるよ。」



 そうだろうか…?

 湊には美人の彼女もいる。

 きっと、湊にとっては一時的な気の迷いに近いものなんだろう…莉子はそう思っていた。



「ありがとう、杏。

 先生は今どう思っているかはわからないけど、私にとっては、ステキな初恋だった。

 これ以上を求めたら場バチが当たるよ。」

 もう十分満足だ…そう自分にも言い聞かせる。



 杏が見た莉子の瞳の奥は寂しさの色に染まっていた。



『莉子…。』

 杏は、本気で莉子に幸せになってほしいと願うのだった。



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