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想い

 湊は心が空っぽのまま真っ暗になった先の見えない道を辿りながら家路へと向かう。


 いつものように玄関の扉を開け誰もいない部屋に電気をつける。


 ソファに座り込み、ぼーっと遠い別の世界を眺めるように溢れ出しそうな悲しみから目をそらす。


 初めて出逢った時から何か違うものを感じていた莉子に、もっと自分の気持ちを伝えたかったし、彼女の想いもしっかり掴んで離したくなかった。



「教師なんて…もう辞めようかな…。」

 高校の時からずっとこの仕事に就く事に憧れて今年初めてそれを叶えることができた。


 もっと生徒たちに信頼されて、沢山の未来を持った彼らの手伝いをしていける教師になりたかった。

 それなのに現実は目の前にいる、ひとりの女生徒に心を完全に奪われて、終いには彼女を傷つけ突き放す結果になってしまった。



「俺は…なにやってんだ…!!」

 理屈では、どうにも整理のつかない感情に完全にはまり込む。




『彼女は今頃どんな気持ちでいるだろう……?』

 考えてもどうにもならない事を、考えずにはいられない。


 抱きしめた感覚がまだ手に残っている…。

 あの瞬間、とてつもなく懐かしくて愛おしい感覚に、教師と生徒だという感覚は全く消えていた。


 どんな想いで、初めてのキスを俺にくれたのだろう…。

 彼女の唇から伝わる温もりの中に自分を懸命に求めてくれている気持ちが痛いくらいに伝わっていた。


 湊はまだ残る莉子の唇の感触を思い出しながら、頭を抱える。



『もう…忘れるしかないんだ…!』



 折り合いのつかない心を麻痺させるように、大きく深呼吸をした…。







 一方莉子は悲しい気持ちよりも嬉しい気持ちの方が正直に勝っていた。

 湊が自分の事を想い一瞬でも心が通じ合った事が本当に嬉しかったのだ。


 湊が笑顔で教壇に立つ姿も、生徒たちに冗談をいって笑わせる話し方も、時にはシリアスに物語を解釈し、説明する表情も、莉子にとってはとても特別で幸せな時間だった。



 そんな湊の姿が教え子である自分との関係を持つ事で失われないよう、守りたかったのだ。

 相手の幸せを奪ってまで、自分に幸せは訪れない…。



 先のことなど分からないが、たとえ同じ時間が共有できなくても今日のこの瞬間が、莉子にって一生懸命これから生きる糧になるような気持ちで、湊にはやりきれない切なさの中にも感謝の気持ちが湧いていた。



『私は十分幸せをもらったんだから…。』


 莉子はこれからどんな感情に振り回されて行くのか想像もつかなかったが、何があっても今日起こった事は真実で、その記憶が支えになってくれるであろう事は感じていたのだった。







それぞれの想いを胸に抱きながら、二人は疲れ切って眠りについて行く。


またいつもと同じ朝を迎え、これからの未来を歩いて行くために…。



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