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抑えきれない衝動

「莉子!ホントここのケーキ美味しいだろ?」

 斗真は莉子の喜ぶ顔が見たくて仕方がない。



「うん。とっても美味しいよ。」

 静かに斗真を見つめる莉子の表情はどこか固かった。



「喜んでもらえてよかった。」

 斗真はそんな彼女の表情に気付かないふりをして、目の前のケーキにがっつく。



「莉子は昔からチョコレートケーキ大好きだもんな。」

 莉子が他のケーキを食べているのを見た事がない。



「うん。なんかチョコレートケーキ食べてると安心するって言うか…。」

 うまく言葉にできない莉子。



「なんだそれ!」

 味とは関係ないのかと意外な答えにクククと笑う斗真。



「もちろん、美味しいんだけど、幸せな気分になれるんだよね。」

『ふーん』と理解に苦しむ斗真を見て、

「いいよ、分かってくれなくても!」

 そう頰を膨らます。



「俺も分かりたいな、莉子の気持ち。」

 意味深な言葉を口に出す斗真。




「………。」

 莉子はケーキの意味だけかな…そう感じてしまう。




 ちゃんと斗真には自分の気持ちをそろそろ伝えなきゃいけないと思っていた。

 きっと今を逃したら、またズルズルこの関係が続きそうなので、決心する。




「斗真…。毎朝送ってくれるけど、もう大丈夫だよ。」

 これ以上自分たちが恋人同士だと思う人を増やしたくなかった。



「どうして…?嫌だった?」

 急に落ち込んだ様に話す斗真に、

「嫌っていうか…。私たち付き合ってないでしょう?噂ばっかり広がってるのが、なんだか怖くて…。」

 正直な気持ちを打ち明ける。



「やっぱり、俺と恋人同士にはなれないのかな…?」

 てっきり莉子は自分を受け入れ始めてくれているのだと思っていただけに、ショックを隠せない斗真。



「ちゃんと聞いて欲しいの。

 斗真の事が嫌いになったんじゃなくて、私に好きな人がいるの。」

 考えない様にしていたつもりだったが、湊の顔が一瞬浮かぶ。



「その人って…新井先生…?」

 斗真の口から出た名前に、莉子は動揺してフォークの先からケーキが転がり落ちる。



「斗真…なんで…?」

 莉子はまさかと思った。

 放課後二人で会っている事を斗真は知っていたのだろうか?



「俺を見くびるなよ?ずっと、なんとなくだけど気づいてた…。」

 悲しそうな笑顔を見せる斗真。



「莉子の事、何年見てきてると思ってんだよ?

 莉子が誰かを好きになった時の表情…それは俺じゃなくて新井先生を見てた時だったから…。」

 斗真は情けない顔を見られたくなくて伝票を握り締め立ち上がる。



「斗真…!ごめんなさい!なかなか言えなくて…。

 先生には彼女もいるし、私なんか近づける相手じゃないのちゃんと分かってるの。

 でも、どうしても自分の気持ちに嘘つけなくて…。」

 今まではっきり言えずにいた申し訳なさが涙となって流れ落ちる。



「…どうかな…?あいつもまんざらじゃないんじゃないか?」

 莉子を見る湊の目が、斗真はずっと気になっていた。

『彼女がいるくせに…!』

 もし、斗真の勘が当たったのなら、莉子の気持ちを弄んで本当に湊を許せないと思った。



「なぁ、莉子。あいつはやめとけよ。莉子がきっと辛い思いする。」

 真剣な眼差しで莉子に伝える。



「…うん。」

 生徒が教師に恋愛感情を本気で抱くなんて、誰だって許してはくれない事だろうと承知していた。

 でも、それで諦められたらどんなに楽だろう…。

 彼を忘れる方法があるのなら誰か教えて欲しいと思うのだった。



「でもな…。莉子の初恋なんだろ?そんな簡単に諦める事なんて出来ないよな…。」

 斗真はまるで自分に問いかけているようだった。



「じゃあな、俺先帰るからゆっくりしてけ。」

 莉子に背を向ける斗真。



「…斗真!ごめんね。いっぱい優しくしてくれたのに。」

 莉子は涙が止まらない。



「俺はいつでも待ってるよ。あいつの事が嫌になったら、いつでも来いよ。

 俺だって、莉子の事まだまだ諦められそうにないしな。」

 悲しく微笑み、莉子の前から立ち去る斗真。




『ごめんね…斗真…。』

 莉子は何度も心の中で繰り返した。




 莉子もすぐに立ち上がり店を出た。

 ふと時計を見る。



 気がつけば足が学校に向いていた。



 息を切らしながら走り出す。




『先生…!まだいるかも…!』

 莉子は自分の気持ちを止められないほどに湊が心の中を占領している事に気がつく。




 少しでも彼に逢いたい…!!



 それ一心で図書室の扉を開ける。


 日が落ちかけ、静まりかえる薄暗い図書室の中をキョロキョロと探し回る。



「やっぱりいないか…。」

 そう呟き諦めて帰ろうと向きを変えた時だった。



「羽鳥…さん?」

 湊が本棚の陰から姿をあらわす。



「…先生…?」

 上がる息を抑えながら彼の存在を確認する。



 窓から微かに入り込む、今にも消えそうな太陽の光を頼りに近づく二人。



「どうした?今日は約束があったんじゃないのか?」

 そう言う湊の表情を確認する光も暗闇に消えて行く。



「戻ってきちゃいました…。」

 薄暗い中で見つめる莉子の顔に、キラリと光るものが流れ落ちるのを湊は見逃さなかった。





 その時もう、湊は自分を止める術を完全に見失っていた。

 目の前の莉子を引き寄せ、きつく抱きしめていた。




「…せん…せい?」

 湊の香りに包まれ心臓が高鳴っていく。

 苦しいほどに彼に引き寄せられた身体から微かな震えを感じた。

 突然の事に莉子は今この時間が夢なのか現実なのかわからなくなる。




 莉子の声にハッとし、

「ご、ごめん!!」

 ガバッと突き放す。




「俺…、何やってんだ…!すまない!!」

 勢いよく頭を下げて莉子に謝る湊。




「私は…大丈夫です…。」

 次々と巻き起こる展開に莉子の思考は完全に停止していた…。



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