誤解
「おはよう!莉子。」
莉子の家に斗真が迎えにくる。
手を繋いだりはしないものの、二人の距離は昨日よりもぐっと縮まっていた。
昨日帰り道の会話を思い出す。
「…斗真。明日、一緒に学校行こうか。」
家が近くて、小学校までは行きも帰りもいつも一緒だった二人。
中学校に入ってからは、お互い部活などで、それぞれの時間を過ごす様になり、自然に離れていった。
今回のことがあって、少しは自分から斗真の気持ちに歩み寄ることを努力してみようと思い直す。
恋に繋がるかどうかは分からなかったが、昨日手を繋いで莉子の心を守ってくれている斗真のことを、初めて男らしく感じたのだ。
莉子はギュッと斗真の手を握り返し感謝の気持ちが伝わればいいなと思った。
学校に着くと、莉子と斗真の噂でクラス中が持ちきりだった。
そんな空気もあり、一度も湊の顔を見ることはなかった。
授業中もずっと湊の背中が視界に入ることも莉子にとっては辛かった。
『早く今日が終わって!!』
ひたすら心の中で唱える。
「どうしたの?その荷物?」
杏が莉子の大きな紙袋を見て驚く。
「あぁ、これ?友達にこの前ジャージ借りちゃってさ。返そうと思って。」
誤魔化す様にサッと後ろに袋を隠す。
本当は中に湊のコートが入ってた。
最後に返してそれでもう終わりだと莉子は心に決めていたのだ。
放課後、大きな紙袋を持って湊を探す。
こんな時に限ってなかなか見つからない。
『もしかしたら…。』
そう思い図書室に行ってみる。
ガラッと扉を開けて、一面を見渡してみる。
「ここでもないか…。」
そう背を向けて出ようとする背中越しに、
「羽鳥さん?」
聞いた瞬間胸が熱くなる声がした。
「…先生。」
気まずい空気の中、大きな袋を手渡す。
「これ、ありがとうございました!」
これが最後だと精一杯の笑顔を作る莉子。
「あぁ…。」
そっと受け取るがまともに莉子の顔を見ることができない。
「じゃ…。さようなら。」
泣くもんか!
大好きでたまらない湊への恋心は、押しつぶされ今にも破裂して粉々になりそうだった。
「ちょっと!!羽鳥さん!」
思わず引き止めてしまう湊。
引き止めたところで、自分の気持ちも伝える事すら許されないのに…。
「…何ですか?」
振り返らずに莉子は聞く。
「俺、忙しくない時はここ毎日来てるから…。
また…、秋田譲治の話に付き合ってくれないかな…?」
湊はどうしても莉子との繋がりを無くしたくなかった。
また後で自己嫌悪に陥ることも分かりきっていたが、引き止めずにはいられなかった。
「えっ…?」
あの日曜日を湊はてっきり後悔しているものだと思っていた。
「いいんですか?」
驚いた莉子の顔に、
「あぁ、待ってるよ。」
そう優しく微笑む。
「はい!!」
また涙目になる莉子。
大きく一礼して図書室を去る。
莉子の心にはパッと花が咲いた様に色が蘇ってくる。
『嫌がられてなかった…。」
それが分かっただけでも莉子は幸せだった。
図書室では袋の中身を取り出し、あの休日の出来事を思い出す。
このコートを着ていた彼女の顔が思い浮かび、思わず抱きしめてしまう。
湊の匂いがいつの間にか莉子の香りに変わっていることに気づき、また心が震えだす。
匂いを通じて感じる彼女を、本当に抱きしめられたらどんなに幸せだろう…。
湊は、莉子に恋をしていることを、この時初めて自覚したのであった。
袋にコートを戻し、それをもって職員室に向かう。
途中杏とすれ違うが一生徒として普通に挨拶をして通り過ぎていく。
でも杏は見逃さなかった。
湊が抱えていたものは、朝持っていた莉子の紙袋と同じだった事に…。
『そんなわけないよね…。斗真くんだっているんだし…。』
杏は頭の中に一瞬莉子と湊の顔が浮かんだが、すぐに消えていった。




