新しい道
誰かに涙を見られないように、急いで昇降口に向かう渡り廊下を走り抜ける莉子。
涙までは気付かれないまでも、明らかに何かあったような彼女にすれ違う生徒達は次々と振り返る。
『早く学校を出なきゃ…!!』
一心で振り返らずにひたすら前に進む。
「莉子!!」
何事かと体育館の入り口の向こうから莉子の姿を見かけた斗真が追いかけて来て腕を掴む。
「…斗真!…ごめん、今日は無理。行かせて、お願い…。」
振り返り手を振りほどこうと、もがく莉子の頰が涙に濡れている。
「おい…!どうしたんだよ、何かあったのか?」
必死に莉子を引き止める。
「なんでもないの、斗真!…放っておいて!」
震える声で訴える。
「放って置けるわけないだろ?」
人目をはばからずギュッと涙の止まらない莉子を抱きしめる。
温かい斗真の大きな胸の中には、莉子が心を解きほぐして行けるほどの大きな信頼が、小さな頃から築き上げて来た時間の中に出来上がっていた事に気づく。
「…斗真…ごめんね…。あたし……。」
泣きじゃくる莉子の髪を優しく撫で、
「いいから、何にも言わなくて…。」
莉子が落ち着くのをゆっくりと待っている。
側から二人の様子を見ている生徒達は、莉子と斗真はやっぱり付き合っていたのだと盛り上がっていく。
杏はその場面を目撃し、目をそらす様にその場を去っていった。
外が騒がしくなっている事に気付き、図書室の窓から覗き込む湊。
さっきまでここで話していた莉子と斗真が抱きしめあっている姿が目に飛び込んでくる。
湊はすぐに目をそらす。
『そうだよな…。あの二人、この前デートしてたもんな…。』
目の前がモノトーンの世界になっていく。
彼女のことが好きだと認める勇気もない自分に、こんな気持ちになる資格はないんだ…。
湊は気がつきつつある、莉子への想いを心の奥底に固く封印していく。
無意識に震えている手を必死に押さえつけ、混乱している頭の中に深呼吸をして、新しい空気を送り込む。
「さぁ、仕事しよう…!」
そう呟き、図書室を後にする。
「莉子、ちょっとまってて!部活早退するわ、今日。」
こんなに弱っている莉子を一人にする事が出来ず、帰る支度をする。
「おいおい、見せつけんな〜!」
他の部員にからかわれ、女子達の刺さる様な熱い視線を背中で受け止める。
「うるせーな!黙れよ!!」
シッと手で蹴散らすように体育館を後にする。
斗真はそっと莉子の手を取り、優しく手を繋ぐ。
「今日くらい、いいだろ?」
莉子は斗真の優しさに、コクリと頷く。
斗真は何も聞かず優しく莉子に寄り添い歩幅を合わせる。
彼のそんな優しさを、莉子は今までずっと気付こうともしていなかった。
『もっとちゃんと斗真と向き合っていこう…。』
その時莉子は心から思ったのである。
その夜莉子は湊のコートを握りしめて見つめていた。
もう、これ以上湊を好きになってしまったらとてもいい思い出で終わるはずがない…。
もっともっと後戻りができなくなる前に、もうこの恋を終わらせようと…。




