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本当の気持ち

 いつもの様に月曜日は容赦なくやってくる。


 莉子は今までよりも念入りに身だしなみを整える。

 あれから頭の中には湊でいっぱいで、消しても消しても溢れるほどに浮かんで来てやむことがない。


 湊への想いは自分にとっての初恋だと素直に認めよう…

 そう観念した瞬間から、彼の存在がしっくりと莉子の心に馴染み始めた。


 たとえ実らない恋でも、初めて好きになった人だもの…。

 一生懸命好きになって素敵な思い出にしよう、そう思えるようになった。




「おはよう!週明けだけど遅刻ゼロで先生は嬉しいよ!」

 冗談混じりに朝のHRは進んでいく。


 莉子は湊の話を聞きながら微笑む。


 湊はまたそんな莉子がどうしても気になってしまい目を向けてしまう。


 バチっと合ってしまった視線に二人同時に顔を逸らす。



『私先生の事見過ぎてたかな…?』

 心臓をバクバクさせながら俯く莉子。


 誰も気がつかない二人のぎこちない視線のやり取りに、莉子は頰を赤く染める。




 火曜日も水曜日も、何も変わる事なく恋という名の悪魔が莉子の心を締め付ける。



『ダメダメ!!私が密かに想ってるだけの恋なんだから…!』

 湊ともっと話したい、近づきたい…そんな欲が湧き上がる感情を押さえつける。


 クラスの女子にも大人気の湊はHR後も女子がいつも周りに集まってくる。

 莉子は気にしないふりをしながらひたすら読書に励んだ。


『本があって本当に良かった…。』

 その世界に入り込んでいる時だけは現実のモヤモヤを消す事ができる。

 それでも消せない時は猫撫で声で湊に擦り寄る女子たちが視界に入らない様静かにその場を立ち去った。




 そんな莉子の姿を、湊はどんな時も視界におさめるようになっていく。


 他の女子達と違って自分の世界をしっかりと持っている莉子にいつのまにか自然と興味が湧いて来る。

 彼女の毎日の自分を避けるような態度に、湊は休日に強引に彼女を引き止めてしまった事を、きっと不快に思ってしまったのかもしれない…、そう焦りの気持ちまで湧いていた。


 自分の恋人もいて教師という立場である事を、十分に分かっているつもりなのに湊は莉子に向かって動き出していく自分の気持ちがなんなのか…またそれをを止める術が分からなかった…。







 ある日の放課後、久しぶりに図書室に向かった。


 図書館になかった掘り出し物の本があるかどうか探し求めていた。


 ガラッと開けた扉の先には、相変わらず誰もいない空間が広がっている…と思いきや、一人男性の後ろ姿が目に入る。


 扉の空いた音に振り返った顔は湊だった。

湊はあの休日以来、莉子とちゃんと話がしたいと思い、毎日この図書室に足を運んでいた。


「…せんせい…。」

 莉子は言葉に詰まる。


 湊は立ち上がり莉子に近づいてきた。


 思わず莉子は逃げ出す様に図書室を出ようとする。




「待って!!」

 駆け寄り莉子の腕を掴む。



「先生…?」

 戸惑う莉子の表情を見て我に帰る湊。



「ごめん…。」

 そっと掴んだ腕を離す。



「…どうしたんですか?」

 莉子はただならぬ湊の表情に後ずさりする。



「ごめん。本当に。俺、羽鳥さんに失礼な事ばっかり…。」

 一生懸命頭を下げる。



「そんな!やめてください。失礼な事なんて何もしてないじゃないですか?」

 莉子は頭を下げる湊の肩を押し上げる。



「いいんだ、気を遣わないで…。とりあえず謝りたかったんだ。教師の立場であんな休日に生徒のこと日が暮れるまで引き止めたりして。ありえないよな、ほんと。」

 頭をくしゃくしゃしながら莉子の顔が見られない湊。



「日曜日の事ですか?私はあの時間、先生といれた事、色んなお話が出来たし凄く嬉しかったですよ?

 コートまで借りてしまって、私の方がお礼を言わなきゃいけなかったのに今更になっちゃって、ごめんなさい。」


 きっと自分といた時間を後悔しているんだろうな…と悲しくなりながら、やっとの思いで一言ずつ声に出していく。




「羽鳥さん…。」

 ホッとしたと思いきや、床にパタパタと落ちる莉子の涙の粒に気がつき慌てふためく湊。



「ど、どうした?ごめん、やっぱり俺が悪かった!!」

 必死にハンカチを探し莉子の前に差し出す。



「違うんです…。私最近情緒不安定なだけで…、泣いてるのは先生は全然関係ありませんから、気にしないでください。私、もう行きますね。失礼します。」

 そう言って一瞬上げた莉子の泣き顔を見て、側に引き寄せ抱きしめたい衝動に駆られる湊。



 それは絶対にやってはいけない事であると、まだ理性が正常に働いていた。



 後ろを振り向き図書室を駆け足で出ていく彼女を追いかけることもできずに立ち尽くす。




「クソッ!」

 自分の不甲斐なさに苛立ち壁に拳をぶつける。





『俺は…彼女が好きなのか…?』

 初めて『好き』という言葉が湊の頭の中を走り抜ける。




「…まさか…。」

 どうにもならない現実に悲観し、誰もいない図書室に座り込むのだった。


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