惑星の昼
地球から遠く離れたバーナード星の惑星の一つに不時着した宇宙船は大破してしまった。乗組員は脱出ポットで本船からわずかに離れた地点に降り立ったが、ここは太陽系ではない。想像を絶する程の低温が彼らを襲った。
バーナード星は赤色矮星で、恒星から離れたこの惑星は昼間のわずかな時間だけマイナス170度まで気温が上昇するが、それ以外は極寒の地獄のような世界だった。
公転周期と自転周期が重なり、地球の200年にあたる一日が始まる。
ラルフは霜で張り付いたまつ毛を開き、光を見た。
「俺は何をしてたんだっけな?・・・そうだ、地球に向けて救援の要請をしなきゃならない!」
ようやく凍った時間から脳が解放されて考え始める。
身体は全く感覚が麻痺してしまって、本当に自分は生きているのかと疑ってしまいそうだった。
宇宙服の生命維持装置はか細く、心もとなく稼動し続けている。
脱出ポットに他に3名の乗組員が乗っているが、彼らと連絡がとれない。
ラルフは船外に出ていたため、惑星の夜にさらされるはめになったが、こうして恒星のわずかな熱で意識が戻った。
他の者の心配もしたかったが、まず、自分の任務を優先させなければならないだろう。
しかし、どうあがいてもラルフは動くことができなかった。
恒星がわずかに移動して行くのをただ見続けるはめになったら、君は何を考えるかい?絶望?焦燥?それとも・・・
その時、この惑星の生物がラルフに忍び寄ってきた。
アメーバに似た外観で、ビルの30階建てくらいの大きさだった。
ぬらりぬらりと動くやつらは・・・そうだ。やつらは複数で移動していた。・・・ラルフを包み込み、折り重なって互いに情報を提供しあった。
やがてやつらの仲間が、おびただしい数の仲間が、脱出ポットの方もいっせいに包み込んで、大破した宇宙船にも押し寄せていった。
「・・・こちら、宇宙船セラミー号。私はラルフ。バーナード星の惑星付近で船が故障したが、無事、地球へ帰還がかなった。もう一度繰り返す。こちら、宇宙船セラミー号。地球政府応答願います」
地球側は返事をよこさなかった。
あまりにも永い時間が経過していた。
「着陸しましょう」
ラルフの仲間のキャサリンが言った。他の誰にも異存はなく、彼らの船は地球の大気圏に突入した。
進化したせいでラルフたちと遺伝子が違う人類がいた。
不思議そうに出迎えた彼らは、ラルフたちが連れ帰った異星の生命体が造り出すテクノロジーに目を丸くした。
朝日が昇る。
虹色のアメーバの群れが、地球の太陽光でキラキラ輝いた。