6/100
【自然】静寂に響く咆哮
【お題:鉄砲、熊、男の子 テーマ:神秘 文字数:366字】
朝靄に包まれた森の中を、息を殺して進んでゆく。
視界は、さほど悪くない。
淡い朝日が新緑を輝かせ、辺りは不気味に美しく、そして静かだ。
サクリ、サクリ、と、草木を踏みしめる足音がやけに反響する。
まるでここが、どこか結界に囲まれた神聖な領域のようにさえ錯覚してしまう。
……いや、ある意味間違いではないのかもしれない。
ここはもう人間の世界ではなく、獣の世界なのだから。
と、
『グォ……ォォォ……ゥゥゥ……』
遠くの方から、熊に似た呻き声が響き、立ち止まる。
でも、僕は知っている。
あれは熊なんかじゃない。熊の面を被った――バケモノだ。
すぅ……と息を吸いこむ。
どこか甘く、さわやかな空気が肺を満たした。
「……待ってろ、じいちゃんと、親父のカタキ……!」
呟くと、僕は猟銃を担ぎ直し、再び足を踏み出した。
吐きだしたこの空気を、硝煙と血の香りで汚すために。