【ファンタジー】小さな冒険者の第一歩
【お題:暁、ヤカン、危険な物語 テーマ:旅立ちの日 文字数:499字】
まだ朝日も昇らない暁の刻。
暖炉の火が部屋をほんのり橙色に染める。
そろそろヤカンの水も沸騰したようだ。
僕はハーブティーを入れて、一人椅子に腰掛けた。
一口飲んで、
「……ふぅ」
と息を吐く。
立ちのぼる湯気の香りで、強ばった身体がほぐれた気がした。
この村のしきたりで、12歳の誕生日を迎えたものは一人旅に出なければならない。
今日は、その旅立ちの日だ。
ここへ戻るのはあと何年後になるだろう。
そう思うと……足を踏み出すのを拒みたくなる。
でも、もう行かなくちゃ。
冷めたハーブティーを飲み干して、カバンを背負う。
玄関に手をかけて、とそこで背後から声が聞こえた。
「お兄ちゃん……もう行くの?」
人形を抱え、寝ぼけ眼をこする妹。
僕は苦笑した。
「無理に起きなくてよかったのに」
「無理じゃないよ。ちょっと目が覚めちゃっただけ」
「嘘ばっかり」
見送りは村の掟で禁止されている。それは彼女もわかっているはずだ。
でも……ありがとう。おかげで心残りが一つなくなったよ。
この先には危険な物語が待っている。
後戻りはできない。
けど、進むしかないんだ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
生まれ育った家を後にして、
僕は玄関の扉を開けた。




