【青春】青空に向けて
【お題:楽器 テーマ:開放感 文字数:455字】
ようやく終わったHRに、詰まった息を吐きだした。
カバンと楽器だけを掴んで、ガヤガヤうるさい教室を後にする。
後ろから刺さる視線。くすくす、にやにや、嗤う声。
誰かが私の名を呼んだ気がした。
でもそんなものは無視だ。構うだけ精神の無駄づかいだから。
廊下を出たらすぐ右へ。
明かりのない階段を最後まで昇りきれば、そこには一枚の扉が待っている。
鉄でできた重い扉。体重を乗せなきゃ動かない。
でも一度開けば、光が差し、一陣の風が吹きつける。
ここは放課後の屋上。
辺りにはもう誰もいない。まるで自分専用、秘密の特設ステージだ。
ケースからトランペットを取り出して、青空に向けて構えて。
すぅ……と大きく息を吸いこんで、吹き鳴らす。
私の思いが、澄んだ音色に乗って響き渡った。
誰かの指揮なんかには合わせない。
自分のリズムは、すべて自分で刻むんだ。
これが私のストレス発散法。
ちっぽけな心の闇なんて、
大空に溶かせば、一瞬で蒼く染まってしまう。
どこまでも、
どこまでも広く、にごりのない青空に向けて、
私の音色が、いつか地平線の彼方へ届きますように。