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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

5歳男子についてのアレコレ

5歳男子が無邪気過ぎて笑える

作者: 葉室ゆうか

 タイトルに反して初っ端から重いんですが、先だって離婚して10年会っていない父親が亡くなってしまった模様。


「…で、ねえ…泰二(父)が死んだらしいんだわ」


 話のついで、といった風に切り出されて「は?」となったんですが。

 母親にしてはコレが本題だったらしく、重々しい口振りで続けました。


「俊行(父の兄)が荷物諸共引き取ったらしいけど、青空社(葬儀屋)の子が苗字にピン、ときたらしくてこっそり連絡入れてくれたんよ。

 …昨日の夜、20日だったらしいわ」


 よりにもよって師走の最中にか。

 まあ、多分血管系なんだろうなぁ。

 と、他人事のように思ってしまいました。まあ、10年会ってませんでしたからね。


 他人にはいい顔をして、そのツケを全部家族に払わせる父親でしたから、訃報を聞いても「…ああ不摂生してたから、炬燵で酒を飲んでうたた寝でもしていて死んだんだろうな」と思う程度でした。


 それでも、流石に実の父。

 今日が通夜で明日が葬式、斎場が実家から車で10分の場所。


 やべぇ…。特に行きたい訳ではないが、倫理観に尾骶骨辺りがムズムズさせられる私。

 しかし、おそらく周囲や身内には離婚の原因を私達母娘が悪妻・悪娘だからと管を巻いていた筈(100%)なので、特に伯父の俊行は呼ばないのでは、と推察された。

 案の定、母も「直接知らされた訳じゃ無いからねぇ…意外にも私等を呼ぶか迷っていたらしいし。万が一、って事もあるから、喪服だけは用意しておいて」とモヤモヤ具合半端ない口調で言いました。


 私は、と言うと実は漸く息子のインフルエンザが落ち着いて、自宅待機している状態でした。






 行けるんです。

 パートもインフル連座でお休み、息子も熱が下がって一週間強制休みを満喫しているだけ。

 斎場の場所も、分かっている。






 どうしよう。






 言い知れぬ焦燥感。

 哀しみが込み上げてくる訳でもないのに、急き立てられる様なこの感じ。




「パパのお尻はぷりっプリ〜偶に爆発だぁ〜〜♪」




 eテレの番組を見ながら、黒曜(息子5歳仮名)が呑気にテキトーな替え歌を歌っていました…。


「…………」


 ああ〜緊張感が解れていく。

 それをジーっと見つめながら、楽しそうにバカな歌を歌い続ける息子が居て良かった、と心から思う。

 何でいきなり爆発するの?と思いはするものの、そこはアメトー○で聞いた昭和仮面ラ○ダーの歌の冒頭、『迫る』を『ケバブ』と歌い変えた息子。



 旦那が帰って来るまで、これで持ちました。

 帰って来た旦那に父親が亡くなった事を告げると、心配そうに「俺、休もうか?」と言ってくれました。

「いや、気持ちは有り難いけど…裏情報だから表立って呼ばれん可能性が高いんだ。だから、休まれても困る。貴方の会社は引き物のお礼状を証拠として提出しなきゃなんないでしょう?

 おそらく伯父は家族葬の形を取っていると思うから、下手すると親戚も呼ばれてない可能性があるんよ。

 だから、現状何とも言えないわ」

「でも、ウチの会社は義理のお父さんが亡くなってる日に仕事してたら逆に監査が入るくらいの組合だから、仕事は気にしなくていいんだよ?」


 オロオロしながら、旦那が言い募ります。有り難い事なんだろうけど、苛々が募って剣呑な心持ちに落ちていく。


 いや、そんな事を言って貰いたいんじゃ無いんだよ。

 多分、死に顔は見れないし送れない、って言ってんだから、気持ちに少し寄り添ってほしいだけなんだよ。何ですげぇ現実的な忌引きの話してんだろ、この人。


「だから、行けないのに旦那が休んでも仕方ないでしょ?」

「でも、ほら…家事とかしてあげられるよ?」

「いや、ちょっと今日はキツイけど、ボーとしながらももう夕飯作っちゃったし。大丈夫」

「…そう?遠慮しないでね」



 まあ、旦那なりの心遣いなんだろうなぁ…と、ちょっと転がりながら考えていると、



「ちょ──────ゆうかさん、下痢が、吐き気が止まらない…。ゴメン、会社に休みの連絡入れて…」

「ああッ⁈」


 こ、コイツ、家事を手伝うどころか病人を二人に増やしやがった!


「インフルかもしれんから明日病院に行ってこい!」

「そう職長に言ったら『明日も休め』って…ゆうかさん、明日も連絡入れてくれる〜〜?」


 信じられねぇ。

 親が離婚して10年会ってない父親が死んだんです。

 なのに、ウチにはインフル病後とインフル疑いが揃っていて。

 私は顔にウイルスバスターをスプレーしてクレベリ○をあちこちに設置している。

 能天気な息子と2歳下の体が弱いんだか強いんだか分からない旦那。




 ああ、何だかデジャヴ。

 そういや昔、凄い失恋した時も相方(親しい友)がトコトン付き合ってくれるかと思いきや、『明日、仕事があるから帰ろう』と切り上げてくれやがったよ。

 私の周りにはウッカリ感傷にも浸らせてくれないナカーマがゴロゴロしてるよ…。


 そう思ったら思わずその友人に電話してしまった。

 彼女なら何て言うんだろう、って思ったから。


『───────そっか、ゆうかファザコンだったからねぇ…』


 お前、いきなり何を言う。

 私がファ…昔はな。うん。嫌いじゃ無かったよ。色々裏切られるまではな…。うん、そっか、ファザコン…う。


『斎場、小浜か。ちょっとだけ外からでも見に行きたいんじゃない?』


 お前、エスパーか。

 だけどな、寒いし、何か…行きたくないんだよ。


『─────でもね、インフルエンザ患者を看護してるゆうかは何処にも行っちゃいけないんだよ』





 すとん。






「…そっか。私、行っちゃいけないんだ」


 不思議な程に落ち着いて。

 さっきまでの苛々が消えて、何だか笑えてきた。


「──────クロ君居て良かったね」


 ああ、そうだな。

 未だにママのチューがご褒美の息子が居て、頑張り屋だけど胃腸が弱い旦那が居て、この二人がタイムリーにインフルエンザ(一人は疑惑)だからこそ。


 私は昔の私の決断を支持出来る。


 まあ、この後パート先で仕事中、話を聞いて探りを入れたお義父さんから死後10日経って発見されたらしいけど、お前も頑張れ!って言われたけど、って言ったら旦那は『ああ〜あの人は〜』と頭を抱えてましたが。


 肝心な時にインフルじゃ無かったけど、役に立たなかったと良心が痛んでミョーに優しい旦那と、流石にゴハンを作る気力も無くなった私をぎゅーッと抱き締めて、





「黒曜、起きろパワー!ママに注入ぅ〜〜!」





 と、寝かさない非情な息子。


「ママのパパ、死んじゃったから、ちょみっとだけ、起きろパワーじゃなくて元気パワーくれ」

「おう!元気パワーチャージ!」





 ぎゅー‼︎





 …あくまでも起こす気なんだな。


「ママのパパは爺ちゃん?」

「いや、黒は会った事無いなぁ」

「?お写真になったの?(うちでは亡くなる事をそう言う)」

「うん」

「ママの爺ちゃん幾つ?」

「父ちゃんなんですけどね?76歳かなぁ」

「ママは?」

「…………」

「ねえ」

「……ヒミツ」



 なあ、お父さんよ。

 やっと何とか文章起こせるまで復活したよ。

 あんたが死んでも誰が死んでも世界は変わりなく回っていく。

 飽きる程物語の中で見たその一文が、漸く身に染みて実感出来たよ。


 明日も私は息子と『りんご』『ゴリラ』『ラッパ』『パンツ』『つみき』のエンドレスしりとりをしながら生きていく。


 あんたは先に逝った婆ちゃん達に叱られながら、のんびり空からそれを見ているといいよ。




 すみません、読者の皆様方。

 ハム、漸く復活です。

 5歳の息子に癒されながら、続き書きますので、もう少々お待ち下さいませ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに、相良〜の方を先に読んでからこちらを読んだので微笑ましいタイトルから想像をと反して…なんて言葉をかけていいのやら… まずは、相良〜の方にはっちゃけた感想を残してしまいすみません。…
[一言] いつも楽しいお話をありがとうございます。 でもって、今回もとタイトルに期待したら、意外なほどマジなお話で驚愕いたしました。 なんと申し上げればよいのか言葉が見つからないって感じなんですが…
[一言] 案外子供って空気読みますからなんだかいつもと雰囲気が違うお母さんの事を五歳児なりに元気付けたかったのでしょう。無邪気なようでいて彼らはとても考えて生きてますからね。
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