『哀愁墓場』
粉雪が舞う
夜の街で騒ぎ
チャ、チャ、チャ、と、
踊りまくったあの頃
汗まみれで銀の鈴を鳴らした。
凛、凛、凛、と、
彼女の悲しみは気高く鳴った。
夜更かしした爛れた愛情がたどり着いた
夜明けまえの湾岸突堤で
星が目をそむける熱いキスをしたり。
彼女を思い出すのは
こんな《絶望》の港町で潮の香りを
日本酒を飲みながら感じたとき。
テーブルに指で酒文字を書いてみる、
『神様なんて、嫌いです』
神様は、けっして、乗り越えられない
試練は与えないんです、って?
我慢は、できるよね
なかば、死んだようになるけどね
お酒の力を借りて
やたらめったら陽気に振る舞う
それでなんとか認めてもらえる
(だれかあのひとに、もう一度、会わしてよ?)
彼女に、最後に会えることを信じて
私は、《絶望》と名乗ってこの港町を飲み歩く
嫌いと言い放った神様に、
ほんの少しでいいから答えを期待しながら
ぬるめの燗を《絶望》で飲み干し
今夜がわけのわからない
うたかたの夜とならないよう
慎重に、でも、情念こめて願うのさ。
(だれかあのひとに、もう一度、会わしてよ)
夜の街の淫靡さに溺れ
引っ掻くようなガリガリの
ヘルプミーを声高に叫んで倒れた
のに、
むかし描いた氷の世界などここにはなく、
やたら掠れた演歌の歌声の響く閉鎖空間に
酔っ払うことで、洗脳されている、世界。
私はみた
『哀愁のある絶望』の流れている世界。
ホッケと、付出しのおひたしが酒の肴、
私を不思議なものをみる目でみて、
へんな期待はしないでくださいね。
ただ、美味しいお酒を飲みたいだけなんです。
この『哀愁のある絶望』がよく似合う、
だろ?
メランコリックな《絶望》の街には。