忘れられるものならば (翼バージョン)
毒を探してきたのは、
あたしの決意
翼を毒殺しようとしたわけではない
その毒の効用が
良いことも悪いことも
忘れるというものだったから
あたしの翼のために
あたしは毒に
すがろうとした
翼、翼、翼、つばさ、
ねぇ?
知ってる?
毒を飲むと
すべてを忘れられるのなら
その苦さも、恐怖も、
我慢してみせる
刺さった寂しさが
月夜、
何年もまえの焼きつくほどのよろこびを
まだ、覚えているつもりの人にも
もう1度刺さりなおすというのなら、
嫌になっちゃうね?
(まだ、好きなんだけど、ね)
傷のうえに傷を切り刻んで
あたしはあたしの言葉をいくつ問いかければ、
過去の幸せが鏡に映る嘘偽りから
真っ直ぐだが愚かな眼を
そむけることができるのだろう
嫌になっちゃうね?
(まだ、好きなんだけど、ね)
今、あたしが走っている白く清く直線の
なだらかなのぼりの坂道を一緒になって
風とともに走ってくれることなど
明日へ向かって走ってくれることなど
ひとりとして、できやしないというのに
勘違いした
やさしい人たちは
なにも知らないで、
一緒に毒を飲もうとしてくれる
ダメだ。
そんなこと、しちゃダメだ。
いつまでも、いつまでも
好きなことを忘れられないのは、
私のくだらない未練の夢の跡、
消して、消えない、傷と同じさ。
毒を飲んだって、苦しむだけのこと、
あるいは一瞬忘れられる気になるだけのこと、
なにも、
なにも、忘れられないよ?
本当の痛みなんて。
それでも月は、
すべてを知ったうえでもあたしの想いを
バカげたこだわりだとかは言わないで、
大切な想い出だからと
美しく、楽しい想い出ばかりだった、と、
想い出補正をかけてくれるかもしれない
それは、もう
嫌になっちゃうよ、ね?
(まだ、それでも、好きだなんて、ね)
バカにされても
仕方ないよね?
翼、翼、翼、つばさ、
ねぇ?
知ってる?
それでも、
その毒を飲んでさえ、
忘れられない気持ち、とか?
あるって、信じられる?