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新たな繋がり。そして再会

<楓、次も作戦通りにいくよ!>


「オーケー、ライル!」


 先日と同じARルームの市街地フィールドで、双剣を握った楓はライルの言葉に意気揚々と返事をする。心なしか相棒の声色もいつもより数段明るく聞こえる。目の前には以前戦ったゾンビを思わせる敵よりも多少動きが活発になった仮想マギ。前回と同じく武器は持たないものの少しずつこちらへ近づいて攻撃モーションを繰り出すようになっているが回避行動は設定されていない。


 そんなゆらゆらとにじみ寄るプログラムに楓は口角を吊り上げ勢いよく地を蹴った。


「はあっ!」


 敵の目の前へ一気に距離を詰め、思うように動かせる体で自らの意思そのままに右手の白剣を振り下ろす。それは確かな手ごたえと共にその左肩を大きく引き裂いた。しかし、本来の暴走マギと同じく痛覚をものともしない仮想マギは斬られた部位を抑える事もなく右手の拳を振り上げる。


 その時。 


<スイッチ!>


 ライルが叫んだ。同時に体の制御はライルに切り替わり、楓自身は自分の脳天を狙う攻撃に気付いていなかったにも関わらず、後ろへ飛び下がって回避する。


<ここからは僕がいくよ。楓は周囲の状況を把握して!>


「了解!」


「ストップストップストーーーーップ!」


 さあ、これからだという時にスマートインカムから大声が響いた。そのキンキンと殴りつける音に思わず顔をしかめていると、今まで対峙していた仮想マギは0と1の群れとなって静かに消滅した。周囲の空間も市街地から青い方眼に戻っている。


「な、なんだよ満。これからだったのに」


 機械的な音を立てて素早く閉まるARルームの扉を背に、その先にいる満に文句を垂れる。


「なんだよ、じゃねえよ! こっちこそなんだよあれ、なにあれスイッチって! 聞いたこともねえよ!」


 楓よりも頭一つ背の低い彼は先ほどと変わらぬ、いや、それ以上の勢いで怒鳴りながらこちらを真っすぐに指さしている。


「いや、だからあれはシンクロできない俺達の戦法で」


「それでその意味わからない戦法に俺達は今後付き合わなきゃいけないの⁉ 無理じゃね⁉ チームなんだぞ、入って早々思い切り和を乱してんじゃねえよ!」


「うっ……」


 口は悪いが、ぐうの音も出ない正論だった。しかし自分にもこの戦い方しかできない。


「ったく、沙耶からも何か言ってやってくれよ」


「あ、あはは……まあ、なんだろ、仕方ないん、じゃないかな。楓は正規の入隊じゃないし、依月さんのユニット使ってるんだし」


 満から話を投げられた沙耶は腰まである黒髪を首元でいじりながら、目を逸らしつつも楓をフォローしてくれた。それが不満なのか満は更に声を荒げる。


「だーかーらー、それがそもそもおかしいんだっての!  ったく、俺、こんなのと一緒に戦うとか自信ねえよぉ」


 満の怒号は段々と鳴りを潜め、 終いにはしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。彼も嫌味を言いたいだけではなく、本当にこれからの戦いに不安を感じているらしい。その原因を作ったのは確かに自分だ。そんな満を見るたび、楓も居心地が悪くなり、すっかり小さくなってしまった満と視線を合わせるように屈んで声をかける。


「ごめん、満。俺、頑張るから。依月さんの分まで。だからどう戦えばいいか教えてくれないか。皆とちゃんと連携が取れるように」


「う……ふ、ふんっ! そんなの自分で考え――」


<いやー、そこまで言われちゃ断れねーなー! 楓! ライル! 一緒に特訓するぞ!>


 満が去勢を張りつつも、ごにょごにょと言いよどんでいると彼の腕から声が響いた。ライルのそれよりも数段高い電子音声はまるで近所の公園で遊ぶ幼い子供のような活発さを連想させる。


「お、おい、 ヴォイド、余計な事言うんじゃねえ!」


「……ふふっ、お願いするよ。満、ヴォイド。しばらくお世話になります」


 バディセンスはその人それぞれにあった一品でなければならない。その性格は装備者の思考を入念に分析し、似たような性格に設定される。だからこそ二人は気が合い、戦闘でもシンクロできて協力なコンビネーションを発揮する。その満のバディセンスがこう言っているのだから、彼も本心は同じなのだろう。


 わたわたと身振り手振りで誤魔化そうとしている彼に、楓も微笑みを隠さず手を差し出して素直な気持ちを吐露してみる。すると顔をすっかり赤くした少年のような二十四歳の青年はこちらの手を握り返してくれた。


<なーなー、楓。特訓の前に俺達にも自己紹介させろよー>


「俺達?」


 はて、自己紹介は顔合わせと昨晩で済ませたはずだが……。


<楓、そういえばまだ彼らのバディとは何も話していない。せっかくだし皆とも話をしておこうよ>


 ああ、とヴォイドの発言が腑に落ちる。確かに昨晩も人間の自分らだけが話していた。恐らく、彼らはあの時既にシンクロ状態にあって、バディ単体が声を発するという事もなかったのだろう。


 シンクロ中は二人の意識が融合する為、どちらか一方のみが考え、話をする事はない。だからこそ、それが出来てしまう楓とライルの異様さが際立ち、満は不安になるのだろう。その不安は満だけではなく、沙耶や智也、リリカも同じだと思う。


<じゃーまず俺からな! 俺は満のバディのヴォイド! 将来の夢は世界の皆を守るヒーローになること! ゼノライガーみたいに!>


「ゼ、ゼノ……? あの昔の番組の……?」


 ゼノライガーという名前には楓も聞き覚えがある。確か小学校低学年の頃、日曜朝にやっていた特撮番組だったか。月曜日、学校に行くと男子達が前日の戦闘シーンを再現して遊んでいたような。バディが夢を語るということは、それはそのまま装備者の想いということだろう。現に満は顔を赤らめながらあたふたしている。


「う、ほ、ほら見ろヴォイド! やっぱ九重引いてんじゃん! そうだよ、二十四にもなって特撮ヒーローに憧れてるとかどーせガキだよ、ふんだ!」


「あ、いや、別に引いてるとかじゃなくて、その……いいんじゃないかな、正義のヒーロー。俺だってそうなりたくてオリオンに入りたかった気持ちは昔からあったし」


<へえ、楓も正義のヒーローになりたいの?>


 恥ずかしさからいじけてしまった満を他所に、ヴォイドとは違う女性の音声が耳に届いた。沙耶のバディらしい。


「ヒーローなんてそんな大層なものじゃないけど、昔の約束でな。守りたい人がいるんだ。君は?」


<私はシルヴィア。沙耶のバディよ。ふーん、彼女さんとかかしら? それよりもっと特別なお方?>


「こ、こら、シルヴィア。あまりそういう事に首を突っ込んじゃ……」


 自分のバディが人のデリケートな部分に踏み込んでいると思ったのか、沙耶がそれを制止する。しかし、彼女自身もこの手の話に興味があるのだろう。詳しく知りたそうに目が泳いでいる。そんな様子がおかしくて楓はくすくすと笑いながら補足する。


「彼女とかじゃないよ。ただの幼馴染だ」


「幼馴染かー。いいわよね、そういう大切な人って。実は私と満も幼馴染なのよ。小さい時からお姉ちゃんお姉ちゃんてずーっと後ろを着いてきてね」


 沙耶は悪戯な笑みを浮かべると、そう言いながら満をちらりと見る。その視線に収まりつつあった満の頬の赤らみは再び熱を取り戻した。


「ちょ、ちょっと沙耶、それは今関係ないじゃん……」


「お姉ちゃん?」


「ああ、私の方が年上なの。今年で二十七歳。楓よりも二つ上かな?」


 確か智也が楓と同い年と言っていたから、依月を除けば彼女が分隊の最年長か。


「そうだったのか。改めてよろしく。沙耶、シルヴィア。次は智也だな」


「ん、ああ、俺はいいよ。俺のバディ、人見知りだから」


「智也の性格からしてそうは思えないんだけど……」


<いーんじゃねー。リディムでてくるとうっさいし>


「リディム? それが智也のバディか?」


 ヴォイドのぶっきらぼうな物言いに首を傾げていると楓の腕からライルが声を挟んできた。


<楓、満と智也は元々仲悪かったんだ。多分、ヴォイドとリディムはまだそれを引きずってるんだと思う>


<へっ! まー最近口出さないからせーせーしてるぜ>


 満もはっきり物事を言うタイプだとは思っていたが、このヴォイドの言いようからして相当仲が悪いらしい。装備者とバディの性格が似ているとはいえ、あくまで別人ではあるから装備者同士は和解していてもバディ同士が仲悪いままという事もあるのか。と楓は一人納得する。


「ま、そういう事だから俺の事はほっといてくれ。それよりお客さんみたいだぜ」


 額に青筋を浮かべて頬を引きつらせる智也が楓の背後を指さす。昨日とは打って変わって彼まで動作が粗雑になっている辺り、随分ご立腹なようだ。今後のチームワークに多少の不安を覚えつつも、言われた方へ顔を向けると楓の名前を呼ぶ依月の姿があった。しかしそれよりも、その隣にいる人物に楓は目を見開き、輝かせる。


 そこには「よっ」と気さくに手を振る大学時代からの親友、柊海斗(ひいらぎかいと)が腰ほどまである以前と変わらぬ赤髪を風に揺らしていた。


「海斗!」


「久しぶりだな、楓。元気してたか」


「ああ、色々あったけどな。話したいことが沢山あるんだ」


「悪い、楓。それはまた後にして、海斗と一緒に少し来てくれるか。九重隊長がお呼びだ」


 依月の言葉に楓は「あ……」と気まずい表情を浮かべる。先輩がいる事もすっかり忘れて、つい話し込みそうになってしまった。そんな楓の様子を察したのか、依月と海斗は二人で生暖かく微笑んでいる。恥ずかしい……。


「すいません、依月さん。父さ……隊長が? なんの用でしょうか」


「大した用ではないらしい。ちょっと顔が見たいんだってさ」


「は……?」


 顔が見たいだけ……? あの物騒な顔したお堅い親父が? ただただ不安ばかりが先行するが、わざわざ二人が迎えに来てくれた手前断るわけにもいかず、楓はただただ「わかりました……」と口にするだけだった。


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