もし、君が僕を*しても───
『──────』
もし、僕がそんなことを言ったら君は笑うだろうか。
もし、僕がそんなことを言ったら君は悲しむだろうか。
もし、僕が**だったら君はどうするだろうか。
もしかしたら君は僕を───。
君は僕よりも優しくて、僕よりもかわいくて、僕よりも賢い。
僕はずっと君の隣で笑っていたい。
ずっと僕は思っていた。それは君も同じだ。そう信じて。
君と僕のそんな関係が終わったのは僕らが出会ってからたぶん5年ぐらいたった頃だった。
君の泣き声で目が覚めた。
いや、違った。あれは夢の中の出来事か。
君は隣で寝ていた。ぐっすりと安らかだ。
君の隣で寝るのも今日でおしまいらしい。
僕は君を起こさないようにカーテンを開いた。外に広がる青い空と緑溢れる光景にもやっと慣れてきた。
前まではカーテンを開けても灰色の壁がその光景をふさいでいた。いや場所がちがうからもっと違った光景が広がっていたのかも。
僕はそんなことを思いながら窓から離れた。そして君の眠る部屋から出た。独特の臭いが僕の鼻を刺激する。
でも、やはり慣れてしまった。慣れというのは恐ろしい。
廊下は白を基調としたものとなっていた。時々僕と一緒に住んでいる人が、でも僕の知らない人が運ばれて来る。
そんなものにも慣れてしまった。
すこし歩くと共有のテレビがある。
僕はそこでいつものようにテレビを見ようとしていたのだが、今日は先客が来ていた。
白い髭と優しそうなたれ目が特徴的なおじいさんだ。一緒にすんではいるけどおじいさんがここにいるのを見たのは初めてだ。
いつもおじいさんは僕とは別の部屋でひとり静かに寝ていたから。
あぁ、そういえば昨日は別の部屋で寝ていた。
不思議に思ったけどなんとなく声を掛けづらくてさけたんだった。その部屋はたしか?あれ?なんだっけ?
「ん?どうしたんだい?」
おじいさんがそんな風に話しかけてきた。僕がテレビの部屋でひとり立ってたのが気になったんだろう。
「ご、ごめんなさい。」
僕はとっさに謝った。ここでの生活で一番大切なのはなにも起こさないことだから。謝って立ち去るのが一番いいと誰かに言われた。
僕が謝るとおじいさんは目を丸くして驚いた。
「あぁ!別に謝らなくていいんだよ。わしはただ心配になってね。そういえば君はここの人じゃないね?なんで君がこんなところにいるんだい?」
おじいさんがそんなことを言ってきた。
ここの人じゃないのは僕も知ってるけど、これまで一緒に住んできたのにすこしひどい気もする。
「すこし、友達の様子を見に来たんです」
僕は正直に答えた。でもここで人と話したのは初めてだ。
誰かはここには話せる人なんかいないと言っていたのに。あれ?どうしても誰かを思い出せない。どうしてだ?
おじいさんは僕の答えを聞いてよけいに驚いた。そしてすこし悲しい顔をした。
「そうかそうか。君は彼女と友達だったのか。それは会いに来たくなるのはわかるが、ここに来るのは間違いじゃないかい?」
僕もわかっていた。でも会いたかったのだ。しかも今日はここにいられる最期の日なのだから。ずっと一緒にいたい。でも僕はテレビを見ないといけない。そういう決まりなんだ。
あ、もう少しで約束の時間だ。
「そ、それより。僕、テレビが見たいんです。見ていいですか?」
おじいさんはゆっくり微笑んだ。
「あぁ、いいよ」
僕はテレビを付けてリモコンの12番を押す。
『───────』
よし。
僕はテレビを消した。
「ありがとうごさいました」
おじいさんにリモコンを渡す。おじいさんはそれを受け取って言った。
「がんばれよ」
僕は静かに頷いた。
僕は君の部屋に戻った。
君はやっぱり寝ている。
僕の口からそれを聞きたくないのだろう。
僕が君を眠らせていることに罪悪感を感じてしまわないように。そうやって眠ったふりをしてるんだろう。
ずっと起きてずっと君は待っているんだ。僕があっちに行くことを。ずっと待ってるんだ。
ごめんね。もうすぐなんだ。もうすぐあっちに行けるんだ。
君はもう僕とは一緒にいられなくなっちゃうよ?
ねぇ、それでいいの?
わかったよ。うん。
じゃあね。
もし、僕が君を*したとしても君は恨まないでよ?
もし、僕が君を*さなくても君は僕を悲しまないで。
君は僕を愛してる。そして僕は君を愛してる。
それで十分じゃないか。
そして君は僕を───。
どうでしたか?
これまでの短編とはすこし嗜好を変えてみました。
みなさんの声が聞こえてくるようです。
結局どうなったんだ?
とそんなことを思ってるに違いないでしょう(笑)
でも、そういうところがなんとなくおもしろいとおもって投稿したんです(笑)
これからも時々短編を投稿していくのでよろしくお願いします。
では、あとがきはこの辺で、、、
また次の機会に。