きつねなな
まだ昼下がり。珍しくこんな時間に帰宅中、私の鼻をくすぐるたい焼きの香り。
香りを追うと、あんこを上下に挟んだ麗しのたい焼き様。それが今まさに3個焼き上がる所だった。――3個は多い気がするなぁ。
(あなたの……心の中に直接……)
あ、はい。便利ですね九尾の方。
久々におねだり電波を受信したので3個ともお買上げし、稲荷神社へと寄り道する。
「はいはい、買って来ましたよー」
と、境内を見回しても気配が無い。拝殿(鈴とか鳴らす参拝する場所ね)にも誰もいないし、仕方ないから呼ばれた訳だし、いいよねと奥にある本殿へ。
本来は入っちゃいけない場所なんだけど、微かに話し声が。
「……もう……ダメじゃ……」
「ほら、そう言わず頑張りましょう。お供え物も来ますよ?」
初めてぐだり狐さんを見た時並みの、ぐったぐたな九尾の方。横にはイケメン若いばーじょんのぐだり狐さん。どういう状態なのこれは。
「はい、今、あなた達に直接話しかけています。たい焼き様が降臨されました」
と、袋から出して見せても九尾の方は、うつ伏せになったまま動かない。横で苦笑しているぐだり狐さんに聞いてみたら、商店街のマスコットキャラクター勝負に負けて拗ねているらしい。そういえばと、たい焼きを買った時に渡されたストラップを出すと……。
「あの狸めがー……」
と、力無く悪態をつく。そのまま身体をくるくると転がして私に近付き、口を開ける。行儀が悪いけど、たい焼きをちぎって入れてあげると、甘さが染みると切ない顔に。
「にょほほー。いい気味だわさ。キュービの」
頭の上に灰色と黒が混ざった丸耳を立てた女の人がやってきた。それを見て飛び上がる九尾の方。
「うっさいわタヌ! お主に華を持たせたまでよ!」
「負け狐の遠吠え~」
と、ニシニシ笑ってお腹を叩く。太いシマシマ尻尾が揺れる。
まさかあれは狸……?
ストラップによく似た雰囲気。でもお腹は出てない元気なお姉さんって感じだ。あのくびれ……私も欲しい。
「あらあら~ん。ここにも私のファンが。こりゃ今年の商店街は私のものねー」
「うっさいわポコゃ!」
たぬーぽこー、こゃーごゃーと、同レベルにやり合う二人。ぐだり狐さんが、説明してくれた事によると二人は長い付き合いで、商店街のお目付け役の取り合いを毎年してるらしい。
「まぁ……大体毎年交互に変わるんですけどね」
今年は譲っただけだとか、また同じ様に争う二人。つまり……。
「仲良しさんか」
ちゃうわ! という二人の声は綺麗に重なった。
たい焼きは、残りの二尾を半分ずつにして、四人(匹?)で分けましたとさ。
今日も我が町は平和です。
実際に、うちの地域はキツネの神様の方が由緒正しいのですが、何故か狸が商店街のキャラクターに抜擢されました。
あと、庭を荒らしに狸が連日襲来しに来ています。
*おそるべしたぬき*