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09

 克太のアパートに上がったソフィアは、

 「失礼します」

 と、言って立ち止まった。

 ソフィアが目を瞑って身体を反らすと、背中に生えた羽根は光の泡になって消えていった。

 克太はまたも呆然と立ち尽くしてその光景を見ていた。

 克太とソフィアはがらんとした部屋に二人向き合って座った。

 克太は訝し気にソフィアの全身をじろじろと見つめている。

 ソフィアは恥ずかし気に頬を赤らめてもじもじとしている。

 少しの沈黙の後、克太から口火を切った。

 「で、話ってのはなんですか?」

 ソフィアはきりりと表情を整えて、姿勢を正した。

 「はい。繰り返しになりますが、私は克太さまの運命を良い方向に導く為に天上界から遣わされた天使です。まだ見習いですけど…」

 克太は黙ってソフィアの次の言葉を待った。

 「克太さまが驚かれるのも無理がありません。本来なら天使の姿は人間には見えないものですから…。克太さま、〈天使の羽根現象〉を知っておれらるでしょうか?」

 克太は固い表情のまま、

 「まぁ、人並みには…」

 と、ぶっきらぼうに答えた。

 ソフィアはにっこりと頷いて話を続ける。

 「実は、あの現象が起こるようになってからなんです。人間の眼にも天使が見えるようになったのは」

 克太は眉根を寄せて首を傾げる。

 「とても信じられない話だな…」

 ソフィアは困ったような笑顔で、

 「はい。私としてはもう、ただ克太さまに信じてもらうしかないです…」

と、細々とした声で告げた。

 克太は、寝ぐせでぼさぼさの頭を掻きむしった。

 「さっきの〈羽〉、あんなもの見せられたら…そりゃある程度は信じるけど…」

 「克太さまのご心中お察しします。いきなりこんなこと言われても混乱するだけですよね。少しづつでも信じていただけるようになっていけば私は充分です」

 克太は、ニコニコと笑顔を絶やさないソフィアをちらりと見る。

 克太の心は、先ほどの〈羽〉を見てから、多少はソフィアの話を信じるようになっていた。警戒心も解けて、ソフィアの次の言葉を待った。

 ソフィアはもじもじと何かを言いたそうにしている。

 克太はそんなソフィアのようすを察して助け船を出す。

 「他にもまだなにか?」

 ソフィアはこくりと頷いてから答える。

 「はい…。名刺にも書いてある通り、私はまだ見習いの天使でして、人間界に降りるのは初めてでして…。その、色々と人間界の常識や振る舞い方を克太さま教えていただくというのも、私の目的でして…」

 「はあ、そうなんですか」

 克太は気の無い返事をした。

 「それで、その、下宿先というか…。克太さまのアパートに私を置いて頂きたくて…」

 「うちに!」

 克太は眼を見開いて叫んだ。

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