07
克太がアパートに着いた頃には、空に星が満ちて、街灯が点っていた。
克太は、パイプベッドに体を投げ出して、今日買ってきた古本を読んでくつろいでいた。
克太の部屋は、パイプベッド意外の家具はパソコンデスクと椅子だけだった。
読み終わった本は、段ボールに詰めて収納にしまっている。
床にはビニール袋、飲みかけのペットボトル、紙くずなどが散乱している。
克太はペラペラと本を捲りながら、
「これ面白くないわ…」
と言って、本を閉じてベッドの上に放り投げた。
それから克太は、口を一文字に結んで険しい顔つきになって、タオルケットを抱き寄せた。
黒い思いが克太の心に満ち始めた。
――虚しい…。こんな毎日の繰り返しだ。なんのために生きているんだ、俺は…。
俺なんかが消えたった世界はなんの損害も無いんだろうな…。こんな屑が子孫を残したってなんのいいこと無いもんな。ホントよくできてるよ。このまま死ぬ運命なんだよ、きっと。はぁ、ホントあほらし…。
克太は抱き寄せたタオルケットに顔を埋めてしくしくと泣き始めた。
歯を食いしばって、四肢をぎゅうっと縮みあげて、声を殺して、泣いた。
――ピンポーン。
だしぬけに鳴ったチャイムに克太は体を跳ねあがらさせて驚いた。
克太の涙は止まって、その眼は警戒して細くなった。
克太はじっとして玄関に向かおうとはしなかった。
(一体なんだよ、こんな時に…。どうせ何かの営業だろう…)
――ピンポーン。
――ピンポーン。
続けて二回鳴ったインターホンに克太は苛立ち始めた。
つと、玄関から女性の声が聞こえてきた。
「すみませぇん…八幡克太さま?克太さまのお宅ですよねぇ…?」
その声色は弱弱しかったが、克太はいよいよ警戒の色を濃くして立ち上がった。
――ピンポーン。
「すいませぇん」
また玄関から、弱弱しい声が聞こえてくる。
克太は玄関へ向かう。
「大事な話があるんですぅ」
扉の向こうの女性は執拗に話しかけてくる。
克太は、玄関のチェーンを付けるとそっとカギを開けた。
それからぎぎぃと玄関の扉を押して開けた。
克太はその女性の姿を確認した。
栗色の髪の毛でふわふわとボリュームがある。つむじから一束、癖毛がぴょこんと頭をだしている。服装はスーツで、タブレットを片手に持っている。
――どこかで見たような気がするな…。
克太は訝しそうに、その癖毛の女性の眼を見て、口を開いた。
「…なにか?」
その癖毛の女子は、ぱぁっと表情を明るくして、扉の隙間に顔を近づけた。
「わぁ…。あのっ、あのっ、八幡克太さんで間違いないですよね」
嬉しそうに両手を握って、顔の前でぶんぶんと振って尋ねた。
克太はそれには答えず、質問を繰り返した。
「あの、なにか…?プロバイダなら変える気はないですよ…」
癖毛の女子は、言葉の意味がわからなかったのか、一瞬きょとんとしてから、慌てて取り繕って、
「あっ、ごめんなさい。私の自己紹介がまだでしたね」
と言って、肩に掛けていたバッグから名刺サイズの紙を一枚取り出した。
そうしてから、それをニコニコとした表情で克太の前に突きだした。
克太は警戒を解かず、その紙を受け取った。それは克太の予想通り名刺だった。
それには、
〈天使(見習い初年)天塚ソフィア希〉
と、書いてあった。